約 883,798 件
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau9/pages/2238.html
現代設定 「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」 朝、寝ている俺の横で尻に充電ケーブルを指されたれいむが、 目覚ましがわりのアラームを鳴らす。 俺は朝なんて来なければいいのにと思いながら体を起こしれいむへと手を伸ばす。 伸ばした手が部屋の冷え切った空気にふれ急速に体温を奪われていく。 「ユックリシテイッテネ!!!ユッ」 れいむの横についているボタンを押しアラームを止める。 早めに鳴らす様に設定しているので出社の時間まで、まだ寝ていてもいい時間だ。 一様背面ディスプレイに表示される時間を確認し、布団の中に戻って後5分後5分と眠る事にする。 5分後…… 「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」 再びアラームがなり始める。 スヌーズ機能を5分に設定しているので、横ボタンだけだとアラームは再び鳴る。 この機能によって誰の手を借りる事も無く後5分が出来る。 そして時間的にはまだ余裕があるので再びれいむに手を伸ばし後5分を始める。 20分後…… 「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」 あれから何度か後5分後5分を続け20分が経過した頃、 さすがにそろそろ起きないといけない時間だ。丁度30分、これが最後の後5分となるだろう。 俺は悲愴な決意と共に最後の後5分へと挑んだ。 5分後…… 「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」 遂にこの時が来てしまった。 畜生、こんな事があるか、俺はただ寝ていたいだけだというのに、 まったくなんで朝なんて来るのか……。 「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」 悲しみに暮れている俺を、れいむは容赦なく攻め立てる。 この瞬間れいむに対して殺意すら浮かぶ。 「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」 とは言え、起きないという選択肢はなく、 だるい体を無理やり起こし身支度を整えなくてはいけない。 「ユックリシ」 とりあえず横ボタンでアラームを留めるが、 横ボタンではスヌーズ機能を止められないので れいむを開いて中央のボタンを押しアラームを止める必要がある。 「いーち……にーい……」 れいむを開くと中からは小声で数を数えているれいむの声が聞こえてくる。 次のアラームまでこうやって数えているのだろう。 俺はポチポチとれいむを操作しアラームを止める。 ようやく朝のお勤めが終わりれいむもほっと一息ついていた。 準備を整えた俺はれいむをポケットにいれ会社へと向かった。 れいむは俺の携帯電話だ。 俺がれいむと呼んでいるだけで携帯自体は普通の携帯電話で、 れいむはその中にいる待ち受けキャラクター的なものだ。 携帯の画面をウロウロしながら、メールや着信をまってそれを俺に知らせてくれる。 朝の様にアラームをセットしておけばそれも声で知らせてくれる。 他にも色々機能はあるが基本的には電池の無駄遣いになる程度の機能でしかない。 そんなものをなぜそのままにしておくかと言うと、れいむを設定してから設定を変える事が出来なくなってしまったからだ。 設定を変えようとするとれいむが俺に暗号の入力を求めて来て、その暗号とやらが判らず設定が変えられないといった具合だ。 「あんごうをいれてね!」 携帯の暗証番号や電話番号、あとは適当に関係ありそうな言葉をいれてもダメ。 「あんごうがちがうよ!!ゆっくりしていってね!!!」 まあ、このままでも特に問題なく、めんどくさいという理由でそのままになっている。 昼休み 携帯でプライベートなメールを確認すると、 件名が無く差出人も見覚えのないメールが届いていた。 気になって開いてみると、本文が表示されるところには文字化けしたような 意味不明の文字列が表示されていた。 なんなのか判らなかったが、とりあえずメールを削除する事にした。 メールを削除すると、何処からともなくれいむが現れ、削除したメールを食べてくれる。 「む~しゃ♪む~しゃ♪しあsdfghjk」 メールを食べると、れいむは奇妙な声を上げそのまま動かなくなった。 顔は笑顔のまま硬直し、その他の操作も一切効かない。 電源ボタン長押しで電源を切って再起動すると特に異常は無かったので、 まあ、この端末にしてから結構たっているからなんか壊れてるんだろうと気にしないことにした。 携帯を再起動して残りのメールを読んでいると 画面端かられいむがゆっくりと姿を現した。 「ゆっくりしていってね!!!」 そういって画面の中をうろうろと、携帯を操作していない時の様に動いている。 何時もは、メールを読んでいる時に待ち受けキャラクターは表示されないのだが、 その時はなぜか表示され少し不思議に思いながらもメールを読んでいた。 すると 「とってもゆっくりしたもじさんだね!!!」 意味がわからなかった。 まあ、文字は動かないしゆっくりしているのかもしれない。 そんな事を考えているとれいむはおもむろに動き出し。 「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせ~♪」 目の前にいるれいむは口を動かしながら幸せそうな顔をしている。 一息つくと隣の文字まで移動してもう一度。 「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせ~♪」 2~3回その様子を見ていてようやく異変に気づいた。 文字が、れいむが通った所に表示されていたメールの本文が消えている。 まさかれいむが食べているのはメールの本文なのか? 俺は訳が判らなくなり、れいむを止めようと慌ててメールを閉じた。 メールを閉じ何時もの待ち受け画面に戻ったが、そこにれいむの姿はない。 れいむもそうだがメールも気になる。 ただ表示がおかしくなっただけならまだメールは無事かもしれない。 俺はもう一度メールを開いた。 メールは無事では無かった。 そこにはムシャムシャとメールの本文を食べ続けるれいむがいた。 「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせ~♪」 結局、大半の文字を食い尽くすまでどうする事も出来ず、 後に残された意味不明な文字列では内容を推測する事も出来なかった。 れいむは満腹にでもなったのかその場でゆーゆーと寝息を立てている。 その日はその後直ぐに電源を切った。 翌日 恐る恐る電源を入れる画面の中央に何時もと変わらない様子のれいむがいた。 「ゆっくりしていってね!!!」 昨日の事がありすこしイラッとしながらも もうメール食ったりするなよと心の中で言いながら携帯を閉じる。 「ゆっくりわかったよ!!」 なにか返事のようなものが聞こえた様な気がするが気のせい気のせい……。 その日の夜、食事を取りながら携帯を弄っていると、またもやれいむが不振な動きをしだした。 あっちへ行ったりこっちへ行ったり、顔の真ん中あたりをヒクヒクさせたり、口からはだらだらと涎を垂らしている。 「とってもいいにおいがするよ!!ゆっくりしていってね!!!」 臭い……臭いねぇ、そんな事わかるはずは無いのだが、一昨日から続く不可解な現象に一瞬信じてしまいそうになる。 「おにいさん!れいむおなかすいたよ!!」 そうだね、お腹空いたね、だからこうして食事を取っているのだけどね。 「おにいさんのほうからにおいがするよ!!ゆっくりそっちにいくよ!!!」 そーか、こいこい、これるもんならだけど。 そう言うとれいむはこちらを向き、少しずつ大きくなっていった。 今までやや右向きか左向きの顔しか見たことが無かったが、正面から見るとあまり可愛くない顔をしている。 それよりこっちに来るといったれいむはどんどんと大きくなっている。 これはひょっとしてこっちに向かって近づいてきているのだろうか……。 「ゆっくりいくよ!!ゆっくりしていってね!!!」 徐々に大きくなってくれいむの姿は、既に画面からはみ出るほどだ。 それでもまだ止まることなく大きくなり続けるれいむ。 遂に画面には顔半分程しか映ってない。 「ゆー、せまくてとおれないよ!!!」 こいつこんなにでかかったのか、しかも画面に写っている顔の一部がこちら側に盛り上がってはみ出している。 「ゆゆ!くすぐったいよ!!」 はみ出している部分を指でつつくと、携帯の液晶とは明らかに違ったぷにっとした柔らかい感触がする。 「ゆっくりひっぱってね!!!」 俺は言われるがまま、はみ出している部分をつまみ思いっきり引っ張った。 引っ張るとれいむはびみょ~んと伸び、徐々にではあるがこちら側に出てきた。 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛!!」 後ちょっとで顔半分が出るといった所で引っ掛かり、それ以上はなかなか出てこない。 引いてダメならもっと引く、つまんでいた部分を鷲掴みにして思いっきり引っ張る。 スポーンという音と共にれいむがこちら側に飛び出した。 「ゆっくりしていってね!!!」 まさか本当に出てくるとは、直径20cmはあるれいむが俺の部屋でゆっくりしていた。 「ごっはん♪ごっはん♪」 れいむはテーブルの上に上りそこにある俺の晩御飯のチャーハンに顔面から突っ込んだ。 「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせー!!」 「あっ!」 と言う間にチャーハンを平らげたれいむは満足そうにふんぞり返ってゲップをした。 部屋の中には甘ったるい臭いが広がる。 「ゆー!まんぞくしたよ!!」 そう言うとれいむは携帯の方に跳ねていき、携帯の画面に顔面を押し付けだした。 だが、出てきたときと同じ様に自力では中に入れず、俺に助けを求めてきた。 「おにいさん!ゆっくりおしてね!!」 押して欲しいなら押してやろう。 俺はれいむの後頭部に手をあて体重を掛けながら思い切り押した。 「ゆぎゅっ……ゆっくりおしてね!ゆっくりだよ!」 ゆっくりじっくりたっぷり押してやるよ。 ズボッとという音と共にれいむが携帯の中に入った。 「ゆっくりしていってね!!!」 台無しになってしまった晩御飯を片付けて、代わりにインスタント食品で晩御飯を作る。 食事を済ませて一息ついているとれいむが突然鳴った。 「プルルルルルル!プルルルルルル!デンワダヨ!!ユックリデテネ!!!」 携帯に表示されている電話番号はアドレス帳には登録されていない。 誰からの電話だろうと考えてみたが判らない。 そうこうしている間に10秒ぐらいはコールがあっただろうか。 段々とコールの音が小さくなっていく。 コールの合間にはれいむの息継ぎの音が聞こえる。 電話に出るとそれは良く知った友人からで、色々あって携帯の番号が変わったそうだ。 用件は番号が変わった事だけだったが、その後しばらくたわいも無い世間話をしていた。 「ゆふー……ゆふー……おにいさんゆっくりしすぎだよ……」 友人の声とは別にれいむの声も時折聞こえてくる。 話に加わりたそうにしているが、友人の方に聞こえていないようだ。 しばらく話をしていると、左頬をなにかにこすられている様な感じがした。 携帯を左耳に当てているので頬にも当たるのだが、携帯とは違うなにか柔らかいもので擦られている。 そういえばすこし前にもこんな感触のものがあったような気がする。 「す~り、す~り、すすすすすっきりー!!!」 ビクンビクンと痙攣が伝わり、擦られる様な感覚も痙攣もしなくなった。 友人と話を終え電話を切った。 突然便意を感じトイレに向かった俺は、手にれいむを忘れずに持っていった。 5分ほどで大き目の様を足し、携帯のカメラを起動し便器へと向ける。 「ピンピロリーン」 今日も体調はバッチリだ。取った写真は携帯に保存しておく。 俺のデータフォルダには既に毎日の健康状態が既に2年分ほど溜まっている。 「とってもゆっくりしてるよ!!!」 そういってれいむは涎を垂らすが、どういう意味なのかは判らない。 「プルルルルルル!プルルルルルル!デンワダヨ!!ユックリデテネ!!!」 再び掛かってきた電話に驚いた俺はついうっかり手を滑らせてしまう。 「プルルルルルル!プルッ!ガボッゴボガビュグビャイ!!!」 落とした携帯は浮いているティッシュペーパの上にのりゆっくりと水中へと沈んでいった。 急いでゴム手袋を装着しれいむを救助したがれいむは既に事切れていた。 おわり 作者:モテカワスリムの愛されレイーム(笑)大好きあき
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/1978.html
れいむ視点と人間視点 「ゆぅ・・・」 れいむが小さくため息をついた。 窓から見える景色は茜色に染まっていた。 ひらひらとれいむの元へ紅葉したもみじが舞い落ちる。 舌を伸ばしてそれを口にくわえようとしたが、舌は窓に邪魔されてぐにゃりと曲がった。 「うゆゆ・・・」 再びれいむが深いため息をつく。 振り返って視線を部屋の中に移す。そこには無造作に置かれた粗末な食器。 その中にはゴミとしか形容のできない物体が詰まっている。それを見て眉をしかめるれいむ。 狭い部屋。所狭しと転がるガラクタの山。 れいむは満たされていなかった。ゆっくりできていなかった。 そこにドスドスと床を鳴らしながられいむの部屋にノックも無しに入って来る人間。 ゆっくりできない元凶が来た。れいむの表情が更に暗くなる。 人間は皿に入ったゴミを一瞥すると、手をつけていないそれを睨みつけて舌打ちした。 「ゴミクズ、なんで食べて無いんだ?」 「ゆゆ・・・っ」 れいむは申し訳なさそうな表情を浮かべながらぼそぼそと語りだした。 「これは食べ物じゃないよ・・・ごみさんだよ、こんなの食べてもゆっくりできないよ」 弱々しいれいむの声。 いくら無理をしてお腹を膨らませても「ゆっくり」できなければ意味が無いのだ。 ゆっくりできなければれいむは精神的に餓死するだろう。人間はそれをわかっていなかった。 昔はおいしい食べ物を持ってきてれいむをゆっくりさせてくれた人間だったが、いつの間にか変わってしまった。 意図的にゆっくりさせずに苦しむれいむを見て心の中でせせら笑っている様だった。 どうして変わってしまったのだろうか? れいむには全く心当たりが無かった。心当たりが無いのだから直す事もできない。 れいむは目に涙を滲ませながら人間を見上げる。 その視線は一瞬だけ合ったが、人間はすぐに顔を背ける。 全く心が通じ合ってない。れいむにゆっくりできないという事実だけが突きつけられた。 「次来るまでに食べておけよ、代わりは無いからな」 皿の上に盛り付けられたゴミを蹴り飛ばしながら もっと汚い皿に盛り付けられた新しいゴミを乱暴に床に放り投げる人間。 れいむの凍りついた表情を一瞥してほくそ笑むと踵を返して部屋を出ていった。 ドスドスと耳障りな足音が消えるとようやくれいむの心が少しだけゆっくりした。 今日何度目になるだろうか?再び大きくため息をつくれいむ。 「ゆっ!かわいいれいむなんだぜ!」 突如窓の外から聞こえた声にれいむはピクリと体を振るわせた。 振り向くとそこには黒い三角帽子を被ったゆっくりまりさの姿があった。 久しぶりに目にする同属のゆっくりに目を輝かせるれいむ。 「ゆ・・・ゆっくりしていってねっ!」 久しぶりのゆっくり同士の挨拶に少し緊張しながらも、 艶やかな髪を棚引かせてにこっ!とれいむは精一杯の笑顔で挨拶をした。 久しぶりの挨拶。何かおかしな所は無かっただろうか? 高まる胸を押さえながらジッとまりさを見つめるれいむ。 「ゆっくりしていってね!」 ぽいん!と地面を跳ねながらまりさも元気に返事をする。 れいむは体の中にぽかぽかとした暖かい何かが流れてくるのを感じた。 それは久しく忘れていた「ゆっくり」だった。 「ゆっ!れいむ!どうしたのぜ?ゆっくりしてないのぜ?」 「ゆゆん?」 れいむの頬にはいつの間にか涙が零れていた。 人間とのゆっくりできない暮らしの最中、 目の前に現れたとてもゆっくりとしたまりさとのゆっくりで緊張の糸が切れてしまったのだ。 それと同時にれいむは一つの結論を導き出していた。 やはりれいむはゆっくりだ。人間とはゆっくりできない。 もうこんな生活には耐えられない。ゆっくりしたい。 そして願わくば目の前のゆっくりとしたまりさと一緒に森へ帰りたい。 「ゆっ・・・・ゆーん!ゆーん!」 感極まったれいむは泣き出してしまった。人間には恩義を感じていた。 今はあんな風になってしまったが、それでも昔はれいむをゆっくりさせてくれたのだ。 しかし人間は変わってしまった。揺るぎの無い事実である。 そしてもう二度と元のゆっくりとした人間に戻る事は無いだろう。 れいむには確信があった。ゆっくりできる事には敏感なゆっくりの勘である。 「ど、どうしたのぜ!?れいむ!?ゆっくり!ゆっくり!」 まりさはオロオロと慌てた表情を浮かべて窓に顔を押し付けてれいむに語りかける。 れいむはもみあげで涙を拭うと再び精一杯の笑顔を浮かべた。 「ゆゆん、ちがうよ・・・・れいむはとってもゆっくりしているよ」 れいむはゆっくりとまりさに今までのいきさつを語り始めた。 人間に拾われてとてもゆっくりできた事。 おいしいご飯を食べさせてもらってとっても幸せだった事。 ある日を境に人間が急に冷たくなってしまった事。 思い起こせばれいむは森の群れから連れ去れてここへ来た事。 最近に至っては狭い掃き溜めのような部屋にれいむを閉じ込めてゴミしか食べさせてくれない事。 辛い事だけでは無く、楽しかった事も包み隠さずにゆっくりとまりさに伝えた。 「ゆゆゆっ・・・・」 おさげで肘をつくような姿勢で考え込んでいたまりさだったが、 少し暗い表情でれいむを見つめて口を開いた。 「れいむは人間さんに飽きられてしまったのぜ」 「ゆぅ!!」 まりさが口にした人間像。 興味本位でゆっくりを捕まえてその日の気分が良ければ飼い、気分が悪ければ捨てる。 捨てるだけならばまだいい。多くのゆっくりは人間の気まぐれで殺されていた。 れいむの話を聞けばどうやらその日はそう遠くないとまりさは感じた。 「このままじゃれいむは捨てられてしまうのぜ」 「ゆゆぅ・・・れいむはどうすればいいの・・・?」 まりさは再びおさげをくいっ!と曲げて考え込む。 暫し沈黙。 そして「ゆん」と頷くとぽいん!と地面を蹴って大声で叫んだ。 「いこう!れいむ!まりさと森へかえろうね!」 「ゆっ!で、でもっ!れいむは」 「れいむ!ゆっくりと窓をあけてね」 あまりにも突然のまりさの申し出にれいむは戸惑う。 しかし、優しい口調だが力強いまりさの声にれいむの決心はついた。 「ゆっ!わかったよまりさ」 もみあげを器用に使って窓を開くれいむ。 その時、大きな音と共に部屋の扉が開かれる。そこにはバットを握った人間。 「おまえらそこで何をしてるんだ?」 目を血走らせて2匹を睨みつける人間。れいむがフルフルと身を震わせる。 そんなれいむの前にまりさが立ちはだかる。 そんな頼もしいまりさの影から恐る恐るれいむが口を開いた。 「ゆっ・・・人間さんゆっくり聞いてね・・・」 「うるさい!なんだ!この小汚いまりさは!」 怒りに身を震わせながら人間がバットを振りかぶる。 「ゆっくりきくんだぜ!人間さん!まりさは何も悪い事はしてないんだぜ!」 まりさの真っ直ぐな眼差しに人間は少し後ずさる。 れいむを蔑ろにし続けた負い目もあるのだろう。 人間は憎々しげにまりさを睨み付けながらもバットを下へ降ろした。 「れ、れいむはまりさと一緒に森にかえるよ・・・!」 弱々しいがはっきりとした口調でれいむは人間にその意志を伝える。 初めは2匹を威圧するような態度で睨みつけていた人間だったが、 いざ手元を離れるとなるとれいむを手放すのが惜しくなったのか、 急に態度を変えてれいむに甘い言葉を投げかけてくる人間。 まりさはそんな人間の醜い執着心を見透かしていた。 こんな態度は一時的なものである。 まりさが去れば、人間はすぐにれいむを蔑ろにするだろう。 コロコロと変わる態度からもそれは明らかだった。 意を決したようにまりさが人間との会話を打ち切って大きな声で叫んだ。 「ゆっ!そこまでなんだぜ!ゆっくりできない人間さん!行こうれいむ!」 「ゆっ!まりさっ!」 おさげでれいむのもみあげを優しく握ると外へ向かってまりさは歩き出した。 その力強い歩みに人間の甘い言葉に再び動揺していたれいむの心も決心がついた。 れいむの悪い癖だ。 また元の優しい人間に戻ってくれるかもしれないとありもしない希望にすがって またゆっくりできない生活を続ける所だった。 どうせ遅かれ早かれれいむは捨てられる運命なのだ。 ならばこちらから勇気を持って踏み出そう。その方がきっと「ゆっくり」できる。 「さようなら人間さん・・・れいむが居なくてもゆっくりしていってね!」 ホロリと涙を零しながられいむがぽいんと跳ねて窓から飛び出した。 久しぶりの地面。ひんやりとした感触が心地いい。 ひらひらと紅葉がれいむの目の前を通る。それを舌を伸ばして口にくわえた。 その時何故だかわからないが、れいむの胸のつかえがスーッと取れていった。 「ゆっくりすすもうねっ!」 れいむがキラキラと目を輝かせながらまりさに微笑んだ。 その優しい笑顔にまりさが少し驚いたような表情を浮かべた後、 まりさも負けじと満面の笑顔でれいむの声に答えた。 「ゆっくり帰ろうねっ!」 ぽいんぽいん!と大地を踏みしめながら、2匹大地を跳ねていく。 その光景を人間は苦虫を噛み潰したような顔でいつまでもいつまでも眺めていた。 人間視点 「はぁ・・・」 少女が小さくため息をついた。 窓から見える景色は茜色に染まっていた。 調理を開始してからかれこれ2時間が経過していた。 最近は学校から帰ったられいむのごはんの支度でかかりきりだった。 いつもと変わらないお菓子の山。手は抜いていない。いない筈。 それなのにれいむの様子は最近おかしかった。 昔は「うめっ!これめっちゃうめぇっ!」と唾液を撒き散らしながら喜んでくれたのに ここ最近、手をつけようともしないでそっぽを向いてしまう。 何か悪い病気では無いだろうか?ふとよぎった不安に少女の心が押しつぶされそうになる。 フルフルと首を振って、不安を振りほどく少女。 完成したお菓子をれいむが拾ったときに口にくわえていた粗末なお皿に盛り付ける。 (きょれは れいみゅの あまあま のおうちだからにぇ! ていちょうにあつかっちぇにぇ!) れいむを拾ったときの光景を思い出してクスクスと手で口を押さえながら微笑む少女。 きっと取り越し苦労に違いない。お菓子の出来栄えも上々だ。 今日こそあの可愛い笑顔で元気に食べてくれるに違いない。 お皿を両手でもって慎重に廊下を進む少女。 「れいむのゆっくりプレイス」と書かれた紙が貼ってある部屋の前で立ち止まる少女。 最近、昼夜問わず喚き散らすようになってしまったれいむ。 少女は他の家族達の邪魔にならないように、 親や兄弟に頼み込んで物置の荷物を少しずつ部屋に置いてもらってれいむの部屋を用意した。 物置をノックして静かに戸を開ける少女。 部屋の中のれいむは少女がれいむの為に作った台に乗って窓から外を眺めている。 「またこんなに散らかして・・・」 部屋の中はれいむが外からかき集めてきた宝物と称するガラクタが散乱していた。 中には新しいタカラモノもある。これはもう明らかに生ゴミだった。 「ゆ゛っ!!」 れいむが少女に気づき眉間にシワを寄せながら少女を睨みつける。 不機嫌そうなれいむの表情が少女を見た途端に更に陰険なものなる。 少女はそれを見て少し困ったような表情を見せたが、取り繕う様に笑顔を浮かべると わざとらしく部屋を見回して優しい口調でれいむに話しかけた。 「も、もう!だめだよれいむ!こんなにゴミを散らかして」 れいむは何も言わずに少女を睨みつけている。 まるで見ず知らずの他人を見るようなその目に少女は思わず泣きそうなるがグッとこらえる。 「なんでごはん食べないの?全部れいむが好きなものばかりでしょ?」 れいむは憎々しげに舌打ちをした。 「こんなのあまあまじゃないよっ!」 「・・・えっ?」 「れいむはもうこんなのじゃ満足できないよっ!もっとおいしいあまあまを持ってきてねっ!」 心無いれいむの一言に少女は堪えていた涙を零した。 どうして変わってしまったのだろうか? 少女には全く心当たりが無かった。心当たりが無いのだから直す事もできない。 少女は目に涙を滲ませながられいむを見る。そんな少女を親の敵のような視線で睨みつけるれいむ。 台からぼすん!と飛び降りると踏ん反り返りながら少女に向かって叫んだ。 「ゆっ!人間さんは本当にグズだねっ!はやくしてね!これ以上れいむを怒らせないでねっ!」 そう叫ぶとれいむは皿に盛り付けられたお菓子を踏み砕いてぷくぅ!と膨らみながら少女を睨みつける。 視線は一瞬だけ合ったが、少女はすぐにれいむから顔を背ける。 あんなに愛くるしかったれいむが、顔をビキビキと歪ませながら怒鳴りつけてくる様子を直視する事ができなかった。 それでもごしごしと涙を拭い、精一杯の笑顔をれいむに向ける少女。 「また来るからね・・・・それまでにはゆっくり食べてね」 小さく呟くてれいむが踏みつけたお皿のお菓子を片付けると、静かに持ってきたお菓子を置く少女。 れいむは塞ぎがちだった少女に会話する楽しさを教えてくれた。 生きる楽しさを教えてくれた。れいむはかけがえの無い少女の初めての友達だった。 少女の父親はこれ以上、喚き散らすようなられいむを捨てると少女に告げていた。 ゆっくりなど捨てて外で普通に友達と遊びなさいと少女を叱った。 少女にとってそれは絶対に飲めない提案だった。れいむを手放すなど考えられなかった。 「れいむの代わりなんて居ないんだからね・・・」 消え入りそうな声で呟くと踵を返して少女はれいむの部屋を後にした。 「もっとおいしいお菓子を作らないと・・・」 もっとおいしいお菓子を作ればれいむは機嫌をなおしてくれるかもしれない。 気がつかない内に手を抜いていたのかも知れない。悪いのは私かもしれない。 早くれいむに元気になってもらわないと、れいむが捨てられてしまう。 少女の頬を再び涙がボロボロと零れた。 ガシャーン! その時、れいむの部屋から窓ガラスの割れる音が響く。 少女は驚いてれいむの部屋に駆けつける。 ドアに耳を寄せると何かねばねばしたものが絡みつくような粘着質な音が聞こえる。 「ひぃっ!」 何か得体の知れない事が扉の向こうで起こっている。 れいむが危ない!少女は兄の部屋に駆け込むと床に無造作に置いてあるバットを握り締めて れいむの部屋に飛び込んだ! 「そ、そこに居るのは誰!?」 フルフルと身を震わせながらバットをかざす少女。 そこに居たのは一匹の小汚いまりさ。 ゴミをあさっていたのだろうか?生臭い臭いが周囲に漂っている。 れいむが少女を睨みつけながら素早くまりさの後ろに隠れる。 まりさは「ゆ゛っ?」と少し驚いた様な表情を浮かべた。 れいむはまりさの影からにょき!と顔を除かせるとニヤニヤとした笑みを浮かべて叫んだ。 「きいてねっ!バカな人間さん!れいむはまりさとゆっくりする事にしたよっ!」 「む゛ーじゃ!む゛ーじゃ!うっめっ!これめっちゃうめっ!」 少女がれいむの為に作ったお菓子をまりさがガツガツと食い散らかしてる。 そんなまりさにれいむが目を血走らせながら体を擦り付けている。 ゆっくり同士が行うスキンシップ「すりすり」である。先程外から聞こえた音の原因がこれだった。 そしてそれを無視して必死にお菓子を貪るまりさ。必死。とにかく必死だった。 「う゛め゛っ!!な゛ん゛ぞごれう゛っめ゛」 「う、うるさいよ!れいむ!なんなの?このまりさはっ!」 少女が目を潤ませながられいむに怒鳴りつける。 一生懸命作ったお菓子をこんなまりさに食べさせるなんて。 れいむが喜ぶ顔を見たくて精魂込めて作った料理を食い散らかすまりさを見て 再びポロポロと涙を零す少女。フルフルと力なくバットを振りかぶった。 「ゆ゛っ!!」 少女に握られたバットにようやく気がついたまりさは プパッ!とお菓子を噴出すとジョロジョロとしーしーを漏らしながら震える声で少女に語りかけた。 「ゆ、ゆっくりきいてくださいぃ!まりさは何も悪い事してないですぅぅぅ!」 まりさのあまりにも情け無い表情に少女は思わず後ずさる。 こんな弱々しいゆっくりに手荒い真似をしてしまうなんて・・・ 少女はまりさに「大丈夫だよ」と笑顔を浮かべてバットを下へ降ろした。 そんな様子を憎々しげに見つめていたれいむが少女に叫ぶ。 「れいむはまりさと森でゆっくりするよ!ゆふん!役立たずの人間さんは用済みだよっ!」 れいむの冷たい一言に少女の顔は凍りつく。 もはや無理やり笑顔を作る事もできずに取り乱した表情でれいむに叫ぶ 「そ、そんなこといわないでぇぇ!」 「ゆっ!うるさいよ!むこうへいってね!」 まりさのおさげにれいむが齧りついてグイグイと引っ張る。 まりさはここには危険は無いと理解したのか、再びご熱心に床に散らばったお菓子に舌鼓を打っている。 「いまこれ食べてるからねっ!あとにしてねっ!」 少女はれいむに近づこうとにじり寄るが、れいむは唾を飛ばして少女を追い払う。 唾を顔面に何度も直撃させながら、少女はれいむに懇願を続ける。 「ご、ごめんね!ちゃんとお菓子作るから出て行くとか言わないでよ!」 「ゆっ!やだよっ!お外の方がゆっくりできそうだから、れいむはゆっくり旅立つよっ!」 「な、なにいってるの!れいむはお外で死にそうになってて拾われたんでしょ!」 「ぞんなばけないでしょぉぉぉ!「ねつぞう」しないでね!れいむは生まれもっての美ゆっくりだよ!」 「ゆ゛っ!」 美ゆっくりという単語にまりさが即座に反応を示す。 食欲を満たしつつあるまりさの本能は次の欲である性欲にシフトしつつあった。 そういえば最近、生きる事に精一杯ですっきりをすっかり忘れていた。 目の前のれいむ、美ゆっくりには程遠かったが、 でっぷりと太ったその体格は食の水準の高さをまりさに確信させた。 まりさはれいむを自分のモノにしようと考え「ゆへへ」と汚い笑みを浮かべた。 そしてれいむと少女の間に割り込むと無駄に男前の表情でまりさが叫んだ。 「ゆっ!そこまでなんだぜ!ゆっくりできない人間さん!行こうれいむ!」 「ゆふぅぅぅ!ばりざぁぁぁぁ!!」 涎と変な液体を撒き散らしながら喜ぶれいむ。 おさげでれいむのもみあげを優しく握ると外へ向かってまりさは歩き出した。 フラフラと寄ってくる少女をぷくぅ!で追い払うまりさ 「ひっ!」 弱いと分かれば謙る必要も無い。 まりさの威嚇に身を震わせる少女を見てまりさがニヤニヤと汚い笑みを浮かべた。 いい気分だ。いつもゴミ捨て場でまりさを睨みつけてくる人間も実は弱いのかも知れない。 「さようならバカな人間さんっ!ゆっくり死ね!」 ペッ!と唾を吐きながられいむがぼすん!と跳ねて窓から飛び出した。 ひらひらと紅葉がれいむの目の前を通る。それを思ったより長く伸びた舌で「ジュルン!」と口にくわえた。 「かわいくてごめんねっ!」 れいむがキラキラと目を輝かせながらまりさに微笑んだ。 そのふてぶてしい笑顔にまりさが少し困ったような表情を浮かべた後、 まりさも負けじと満面の笑顔でれいむの声に答えた。 「早く帰ってすっきりしようねっ!」 ぼすんぼすん!と大地を踏みしめながら、2匹が大地を跳ねていく。 「れいむぅぅ!れいむぅぅぅ!」 「ぶるんぶるん!」と体を振るわせるれいむと 「んほぉんほぉ!」と舌をだらしなく垂れ流しながら前かがみで進んでいくまりさ。 そんな2匹を少女はいつまでもいつまでも眺めていた。 それから2日後。 景色はすっかりと紅色から純白へと変化していた。 雪は一日中降り積もり、街の交通網を一時的に麻痺させる程だった。 窓を手で擦って外の景色を眺める少女。赤く腫れた目。 この2日間少女はれいむの帰りを待ち続けていた。 しかしこの大雪の中、ゆっくりの様な脆弱な生物が生き残れる程自然は甘くない。 ただ外を眺め続ける時間が増えていた。 「もう泣くのはおよしなさい」 少女の父親が優しく肩に手を置く、 その手にそっと触れて少女がすんすんと泣き出した。 その時、ばすんばすん!と扉を叩く音。 来客に応対しようとトタトタと俯きながら玄関に向かう少女。 それを父親が声をかけて止める。 「そんな顔でお外へでるつもりかい?お父さんが出るからね」 あごひげをさすりながらニヤリと笑う父。 そして少女をテーブルに座らせると小さな箱を置いた。 「お父さんは要らなかったんだけどね。なんかもらったから。そういうことだから」 突然の父からの贈り物に小首を傾げる少女。 そして再び忙しなく扉を叩く音。 父は「せっかちさんだぜ」と呟くとゆっくりと玄関に向かっていった。 時折カタカタと振動する謎の箱。 その箱をつんつんと指で突付いて少女は怪訝な表情を浮かべた。 「なにしてるの!?はやくあけてね!!ばかなの?しぬの?」 玄関へ行き、扉を開けると予想通りそこには頭に雪を積もらせながらぷくぅ!と膨らんだれいむ。 膨らみながらも身を切るような寒さの為に時折プルプルと身を震わせている。 その傍らには全然かわいくない子れいむが3匹、鼻も無いくせに鼻水を垂らしながら 「ゆっ!ゆっ!」と眉毛をキリッ!とさせながら何故か誇らし気な表情でこちらを見つめている。 可愛くてごめんね!とでも言いたいのだろうか?主に存在がキモい。 「ゆっ!やっとあいたよっ!本当に人間さんはグズだね!かわいいれいむ達がゆっくり帰ってきたよっ!」 「「「きゃえってきてぃゃよ♪」」」 さも当然の権利のように悪態をつきながら少女の父親に暴言を吐き捨てると ニコニコとした笑顔で赤ゆっくり達を従えて暖かい家の中へと入り込もうとするゆっくり達。 「ゆっ!ゆっ!いちばんにょりだよっ!」 「ゆっくちすすむにぇ!」 「あったきゃいにぇ!」 そんな赤れいむ達だったが、入り口を塞ぐ人間の足に邪魔されて中に入る事はできない。 「ゆっ?ゆっ?」と不思議そうな顔で一斉に親れいむに注がれる赤れいむの視線。 気の利かない父親の愚鈍な動きに親れいむのこめかみに餡の筋がビキィ!と浮んだ。 「とっととどいてね!バカな人間さん!それからはやくれいむ達にあまあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」 「あまあまを持ってきてね」といい終わる前に「ばぶちぃ!」と父に踏み潰される一匹の赤ゆっくり 足を上げると餡子を口から吐き出した赤れいむが痙攣しながら靴の裏にへばりついている。 「ゆ゛っ!」 少し遅れて姉妹が餡子まみれでお空を飛んでるみたいになっている事に気がついた赤ゆっくり。 クワッ!と形相を浮かべて、意外にも素早い動きで親れいむの後ろへ逃げ込む。 そして親れいむの背後からにゅる!と顔を出して「><」こんな目で 「ばきゃなの?」とか「ちんでね!」とか勝手な事を叫んでいる。 その饅頭の後ろは安全地帯でもなんでもない。むしろ被害を蒙る可能性で考えれば危険地帯の特等席であろう。 そんな危険地帯の塊がビキビキと筋を浮かべながら、 歯をギリギリと鳴らしてワナワナと震えている。 少女の申し出に一度も反対することなく、 それを飲み続けていた父親をれいむは家の中でのヒエラルキーの最下層と勝手に決め付けていた。 その最下層のありえない暴挙にれいむの怒りは頂点に達していた。 「それから・・・なんだって?」 悪びれない父親の口調。 れいむは父親に噛み付かん程の剣幕で大口を開けて叫んだ。 「なにじでるごのクズぅぅぅ!死んでわびでねぇぇぇぇ!それかられいむ達にあまあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」 またしても「あまあまを持ってきてね」と言い終わる前に再び足が振り下ろされた。 足を上げると更に餡子を搾り出した赤ゆっくりが先程より早いテンポで痙攣をしている。 コロリと地面に落ちた赤れいむはフルフルと涙を零しながら男にその可憐な泣き顔を見せつけると 力を振り絞って声をあげた。ホロリと宝石のような涙が雪の上に落ちて溶けた。 「ゆぅ・・・ぐしゅぅん・・・れいみゅを・・・いじめにゃいでにぇ・・・・?」 キモイので足を叩きつけてすり潰した 「ぷぎょ!ぴへっ!ほだらっ!」 一瞬の内に柘榴のように砕ける赤れいむ。 プチプチと目玉と歯が潰れる音を立てながら赤れいむは粉々に砕け散って黒い染になった。 おもむろに服を脱ぎだす父。上半身の真っ赤なボディが露になり無駄に湯気とか立ち上る。 父は深く静かに怒りが有頂天になっていた。 このクソ饅頭の傲慢を許したのは全て自分の間違いであった。 少女の心の成長をこのクソ饅頭に委ねた自分の間違いであった。 全ては自分の過ち。しかしそれを差し引いても、炎のように父に立ち上る憎悪の感情。 ゆっくり許すまじ 真っ赤なボディが唸りを上げて咆哮する。 心底ゆっくりできない光景を目の当たりにしてゆっくり達は恐れおののいた。 「ゆわあ゛あ゛あ゛あ゛!!ゆっくりできないぃぃぃ!!」 仰け反るように倒れこんで雪の中で溺れるようにジタバタと暴れるゆっくり達。 しかしバケツに入った冷水を浴びせられるとその動きはピタリと止まった。 「づべだっ!!ひぎっ!ゆべっ!!」 更に空になったバケツを顔面にぶつけられて、顔を真っ赤にしながらゆっくりと親れいむが立ち上がった。 もはや今までの尊大な態度をぶら下げた面構えの面影も無い。 父の圧倒的な「ゆっくりできない」オーラによって親れいむの心は一瞬で折れて萎縮した。 そこには寒さに身を震わせながら涙を目に滲ませて謙った笑みを浮かべるクソ饅頭が居るだけであった。 「おっ・・・おでがいじばず!ざむぐでっ!おなががべっでじにぞうなんでずっ!」 ポロポロと涙を流しながら先程とは打って変わって謙虚な態度で父親に語りかけるれいむ。 そんな親れいむの情け無い様子を目を丸くしながら驚いた表情で見つめる子れいむ達。 可愛い姉妹が踏み潰されたのも関わらず、ヘコヘコと人間のご機嫌を伺う姿に子れいむが苛立ちの声をあげる。 「おきゃーしゃん!にゃにしてるにょぉぉぉ!」 「ばきゃなのぉぉ?はやくいもーちょのかたきをとってにぇ!」 ぷんぷん!と頬を膨らませて不甲斐ない親れいむを罵倒する子れいむ もう一匹はぽこんぽこんと親に体当たりを繰り返している。 「うるさいよ!ちびどもっ!ゆっくり黙っててねっ!」 カッ!と赤ゆっくり達を一括して吹き飛ばす親れいむ。 「ゆっくりいたい」「しかもころがるよ」と雪の中に突き刺さる子れいむ達。 しかし水をかけられた事により体温は更に低下し、あまりおいしいリアクションを取る事もできずに 無言でそそくさと雪から這い出て親の側に擦り寄って「さむいからやめてね」と無表情で呟いた。 そんな子供たちを捨て置いて、ニコニコと冷や汗を浮かべながら親れいむが語りだした。 「に、人間さん?ゆっくりきいてね?だかられいむを」 ぴしゃり! 無言で締められる扉。 家の中から流れ込んでくる暖気すら遮断される。 外からは「ゆっ?ゆっ?」とれいむ達の声が微かに聞こえてくる。 れいむの助けて欲しい対象が地味に「れいむ達」から「れいむ」に変化している事にご注目頂きたい。 つまりれいむの中で赤ゆっくり達はこの時点で切り捨てられたのである。 もはや赤ゆっくりには一瞥もくれずに身を切る様な寒さに耐えるれいむ。 暫くしてようやく扉が開かれた。 そこには雪に半分埋もれかかってつららを生やしながら白目を剥く親れいむと 何とかして暖かい親れいむの口の中に入り込もうとする赤れいむ。 寒い塊が口の中に入る事を拒む親れいむと 必死に口に捕まって何とかしてこじ開けようとする子れいむ達との無言の戦い。 そんな戦いの最中に再び開け放たれた扉に親れいむは目を輝かす。 「まりさはどうした?」 「ばっ!ばばっ・・・ばでぃざばっ・・・」 れいむは凍りついた口をバリバリと鳴らしながら家を去った後の事を語りだした。 森へ帰ったれいむとまりさはとりあえずすっきりした。取るものもとりあえずすっきりした。 そして産まれたのはれいむ6匹とまりさ7匹。 しかし程なくして森に凄まじい寒気が押し寄せる。予期せぬ冬の到来だった。 当たり前だ。この時期に外をうろつくゆっくりなど無能以外の何者でも無い。 他のゆっくり達はとっくに冬眠の準備を終えて巣の中で眠りについているだろう。 それに予期せぬとか何か不慮の事故っぽく言うのはいかがなものか? しかも餌集めもしないで子作りとは・・・バカだ。バカのエリートだ。 ようやく越冬の為の餌集めに奔走をはじめる2匹。 トロくさいまりさの緩慢とした動きにイラ立ちを覚えながら餌を探すれいむ。 しかし山には餌など何も無い。他のゆっくり達が取りつくしてしまったのだった。 ケーキさんもクッキーさんもハチミツさんも山には残ってなく バカのまりさが草とか虫とかありえない物をかき集めて踏ん反り返っていたのでブン殴った。 娘が精魂かけて作ったお菓子をゴミと履き捨てる程、無駄に舌の肥えたクソ饅頭だ。 森の食料はさぞかしゆっくりできなかっただろう。 ケーキやクッキーが森にあるわけないでしょ?馬鹿なの?死ぬの?冬なのに頭の中は春真っ盛りなの? ゴミばかり集めてくる馬鹿のまりさに説教をしていたら 馬鹿のクセに突然キレて暴れだした。その騒ぎに巻き込まれて赤れいむが怪我をした。 ゆっくりできないまりさを赤ゆっくり達と協力して叩きのめして下山を決意したれいむ。 そして現在に至る。 「至れるわけないだろ」 「ゆぷぇ!」 父はれいむを踏みつけた。ズモモ!と雪に沈んでいくれいむ。 なんで赤ゆっくりがれいむ3匹だけになってるんだ?なんかスパッと大事な所を省いて無いか? 雪に埋もれて顔だけを出したれいむが「ゆゆん?ゆゆん?」とスッとぼけた笑顔を浮かべたので 雪を盛り付けて埋めてやった。暫くは「だしてね?ばかなの?」と可愛らしい声を張り上げていたが、 早々に限界が来たのか押し殺した声で「ゆっくり食べました」と白状した。 どうやって食べたのか?と聞くと 基準が甚だ不明瞭だが、可愛くないまりさから順番に全員で襲って食べたらしい。 しかもそれを行っていく内に、痛みつければ痛みつけるほど味がよくなる事に気づき、 最後のほうはミンチになるまで全員で暴行を行ったと白状した。 凄いな。清々しいまでのゲスだ。逆に関心してしまった程だ。 「そんな事してお前はどう思った?」 一応聞いた。 返答によって処遇が変わるわけではない。何となく聞いただけだ。 その問いかけに対してれいむはポツリと斜め下の回答を示した。 「あまりおいしくなかったです」 「そうかそうか」 「話したんだからそろそろ出してね。寒いからね。ゆっくりさせてね」 もうもうと湯気をあげるやかんを取り出す。 先程この場を離れたのはこれを用意する為だった。 ぐらぐらに煮えたぎったそれをれいむの埋まっているあたりに流し込む。 一瞬にして雪は溶けて全身を埋めたれいむの姿が露になる。その顔面に熱湯を垂れ流してやる。 「ゆっ!すごく暖かっ・・・・づあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」 熱湯の直撃を受けてれいむがおもしろい様に跳ね上がった。 熱湯から逃れようと必死に体を動かすれいむだがどんどん溶ける雪によって 体は逆に深く深く沈みこんでいった。あっという間にそこにマンホールの蓋くらいの小さな池が完成した。 「や゛べでえ゛ぇぇぇぇ!あ゛づい゛!!あ゛づい゛ぃぃぃぃ!」 池の中に潜り込んで熱湯から逃げるれいむ。 しかし息をする為に苦悶の表情を浮かべた顔が水面から時折出てくる。 そこへ正確に煮えたぎった熱湯を注ぐ。 「ひゃべ!ひゃべでぃえええええ!!!」 お湯を浴びる度にビクン!と体を振るわせてのた打ち回りながら沈んでいくれいむ。 お湯が尽きたので暫く放置しておくとプカリと顔面をグシャグシャに変形させた饅頭が浮かび上がった。 「はっ・・・!はひゅっ!はっひゅっ!」 よろよろと小さな池から脱出して顔面を雪に擦り付けて患部を冷やすれいむ。 心配して擦り寄ってきた赤れいむを払いのけてフラフラと逃走を開始した。 降りしきる雪の中をヒタヒタと身を引きずるようにして進むれいむ。 「この吹雪の中どこへいくんだ?こっちに来なさい」 「ゆ゛っ・・・・!」 パンパンに腫らした顔をグルリと回転させて父親を見るれいむ。 その憔悴しきった顔へ父親が先程とは違う優しい笑みを浮かべて語りかけた。 「もう終わりだよ」 「ゆゆっ・・・!」 「これでもう終わりだ、こっちに来なさい」 「ゆぅん!」 お仕置きは終了した。 父親の圧倒的な残虐行為にゆっくりとれいむは身の程を理解した。 れいむは自分が如何に恵まれた環境で過ごしていたということをこの2日間で痛感した。 しかしもう一度チャンスを与えられた。 れいむは変われる。もう一度この人間さんたちとゆっくりさせてもらえる。 れいむは涙を流しながら人間に駆け寄った。 「ごべんなざい!れいむはゆっくりと反省したよ!」 「そうかそうか」 父親の手には更なるやかん。 グラグラと煮えたぎった液体がもうもうと煙を放っている。 それを見てれいむのグシャグシャの顔が更にグシャグシャになった。 「ゆ゛っ!なにじでるの!?もうおわっだんでしょう??」 「そう、お前はもう終わりだ」 「な゛に゛い゛っでるのぉぉぉ!ゆびぇ!!うそでじょおお!?ゆっぐりざぜでえええええ」 再びれいむの顔面に降り注がれる熱湯。 れいむは憔悴し切ってもう逃げる事もできない。 「べびっ!ひぶべっ!い゛や゛っ!じぬのい゛や゛ぁぁぁぁぁ!!!」 ビクビクと痙攣するれいむに黙々と降り注がれる熱湯。 再び地面が溶け出して新たな池が形成される。 徐々に沈み込んでいくれいむの体。 その視線は完全に沈み込むまで開いた扉から微かに除かせる暖かい室内に注がれていた。 そして再びれいむが浮かび上がってくることは無かった。 「ゆっくちー♪」 「ゆっくちできるにぇ♪」 地面には二つの穴、その片方の黒く濁った小さな池にぷかぷかと浮いてゆっくりする赤れいむ達。 それは親が惨死した池というのに見事なゆっくりぶりである。 「きゃっきゃっ」と楽しそうな声をあげるゆっくり達が父を見上げて喚きだす。 「にゅるいよ?ばきゃなの?」 「はやく、あったきゃくちてにぇ!」 そんなバカ2匹を拾い上げて家に入る父。 家の暖気に目を輝かせて父親の手からにゅる!と体をはみ出しながら キョロキョロと辺りを見回している。 向かった先はおトイレ。 素早くドアを閉めて便器の中に2匹を投げ入れる。 「ゆぴぇ!」 「ちゅめたい!」 驚いた表情を浮かべてにゅるにゅると便器から這い出そうともがく2匹。 しかし便器から脱出することはできずに少し登っては水の中にぽちゃん!と落ちる。 やがて2匹は互いを踏み台にして脱出しようともみ合いをはじめた。 「どいちぇにぇ!れいみゅはここからでるからにぇ!」 「ばきゃなの?れいみゅはここでちんでにぇ!」 父は「小」しようか「大」にしようかやや迷い、折角だからと「大」の方へツマミを捻った。 ズゴゴゴゴゴゴ!っと唸りを上げてゆっくり達にとっては大洪水が降り注ぐ。 2匹はシンクロした動きでカッ!と形相を浮かべて水に流された。 「ゆぴぃぃぃぃ!おきゃぁぁぁしゃん!なにちてるにょぉぉぉぉ!」 「はやくっ!はやくたしゅけてね!きゃわいいれいみゅがこまっちぇるよぉぉぉ!」 ズボッと便器に並んで詰まった為に即座に吸い込まれる事は無かったが、 徐々に水かさが増して目を見開きながら水没して苦悶の表情を浮かべる2匹。 やがて片方が力尽きて「ちゅるん!」と水流に飲まれて深い闇に飲まれていった。 溜まっていた水が流れ出して水流が強まる。もう一匹はそんな姉妹には目もくれず、 便器のへりに齧りついてぶるんぶるんと身を揺らしながら水流に耐えていた。 やがて弱まる水流。水かさがどんどん減っていき赤れいむが水面から顔を除かせた。 死にそうな顔で必死に「ぜひゅーぜひゅー」と呼吸をする赤れいむ。 顔をあげて父親に涙を零しながら懇願する。 「やべちぇぇぇぇ!きょきょからだしちぇぇぇぇぇ!」 ポロポロと涙を流しながら尻を振ってかわいさをアピールする赤れいむを他所に 物凄い勢いでタンクに補給されていく水。 次の水を流せる様になるまでにあと数十秒といった所か。 「なんだか「もよおして」きたな」 1人呟く父親。 そしてボロンと父親のズボンの中からこぼれ落ちた「たわわに実った山葡萄」 それを見た赤れいむはアマギった表情を浮かべて絶叫した。 「ぴゅみぃぃぃ!な゛に゛ちょれぇぇぇ!!ゆっくちできにゃいぃぃぃぃぃ!!!」 父から渡された箱の中には小さなベッドで「ゆぴぃゆぴぃ」と眠りにつく赤まりさが入っていた。 「水上まりちゃ だよ! ゆっくちちちぇいっちぇにぇ!」 「うわーまりさ、すごーい」 「ゆっくち!ゆっくち!だにぇ!」 コップの水の上に帽子を浮かべてその上に乗って誇らしげに ぷりんぷりんと身を揺らすまりさを眺めながら少女は手を叩いて幸せそうに微笑んだ。 もはや我侭ばかり言うクソ饅頭の事など少女の心の片隅にも残っては居なかった。 おしまい
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/859.html
現代設定 「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」 朝、寝ている俺の横で尻に充電ケーブルを指されたれいむが、 目覚ましがわりのアラームを鳴らす。 俺は朝なんて来なければいいのにと思いながら体を起こしれいむへと手を伸ばす。 伸ばした手が部屋の冷え切った空気にふれ急速に体温を奪われていく。 「ユックリシテイッテネ!!!ユッ」 れいむの横についているボタンを押しアラームを止める。 早めに鳴らす様に設定しているので出社の時間まで、まだ寝ていてもいい時間だ。 一様背面ディスプレイに表示される時間を確認し、布団の中に戻って後5分後5分と眠る事にする。 5分後…… 「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」 再びアラームがなり始める。 スヌーズ機能を5分に設定しているので、横ボタンだけだとアラームは再び鳴る。 この機能によって誰の手を借りる事も無く後5分が出来る。 そして時間的にはまだ余裕があるので再びれいむに手を伸ばし後5分を始める。 20分後…… 「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」 あれから何度か後5分後5分を続け20分が経過した頃、 さすがにそろそろ起きないといけない時間だ。丁度30分、これが最後の後5分となるだろう。 俺は悲愴な決意と共に最後の後5分へと挑んだ。 5分後…… 「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」 遂にこの時が来てしまった。 畜生、こんな事があるか、俺はただ寝ていたいだけだというのに、 まったくなんで朝なんて来るのか……。 「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」 悲しみに暮れている俺を、れいむは容赦なく攻め立てる。 この瞬間れいむに対して殺意すら浮かぶ。 「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」 とは言え、起きないという選択肢はなく、 だるい体を無理やり起こし身支度を整えなくてはいけない。 「ユックリシ」 とりあえず横ボタンでアラームを留めるが、 横ボタンではスヌーズ機能を止められないので れいむを開いて中央のボタンを押しアラームを止める必要がある。 「いーち……にーい……」 れいむを開くと中からは小声で数を数えているれいむの声が聞こえてくる。 次のアラームまでこうやって数えているのだろう。 俺はポチポチとれいむを操作しアラームを止める。 ようやく朝のお勤めが終わりれいむもほっと一息ついていた。 準備を整えた俺はれいむをポケットにいれ会社へと向かった。 れいむは俺の携帯電話だ。 俺がれいむと呼んでいるだけで携帯自体は普通の携帯電話で、 れいむはその中にいる待ち受けキャラクター的なものだ。 携帯の画面をウロウロしながら、メールや着信をまってそれを俺に知らせてくれる。 朝の様にアラームをセットしておけばそれも声で知らせてくれる。 他にも色々機能はあるが基本的には電池の無駄遣いになる程度の機能でしかない。 そんなものをなぜそのままにしておくかと言うと、れいむを設定してから設定を変える事が出来なくなってしまったからだ。 設定を変えようとするとれいむが俺に暗号の入力を求めて来て、その暗号とやらが判らず設定が変えられないといった具合だ。 「あんごうをいれてね!」 携帯の暗証番号や電話番号、あとは適当に関係ありそうな言葉をいれてもダメ。 「あんごうがちがうよ!!ゆっくりしていってね!!!」 まあ、このままでも特に問題なく、めんどくさいという理由でそのままになっている。 昼休み 携帯でプライベートなメールを確認すると、 件名が無く差出人も見覚えのないメールが届いていた。 気になって開いてみると、本文が表示されるところには文字化けしたような 意味不明の文字列が表示されていた。 なんなのか判らなかったが、とりあえずメールを削除する事にした。 メールを削除すると、何処からともなくれいむが現れ、削除したメールを食べてくれる。 「む~しゃ♪む~しゃ♪しあsdfghjk」 メールを食べると、れいむは奇妙な声を上げそのまま動かなくなった。 顔は笑顔のまま硬直し、その他の操作も一切効かない。 電源ボタン長押しで電源を切って再起動すると特に異常は無かったので、 まあ、この端末にしてから結構たっているからなんか壊れてるんだろうと気にしないことにした。 携帯を再起動して残りのメールを読んでいると 画面端かられいむがゆっくりと姿を現した。 「ゆっくりしていってね!!!」 そういって画面の中をうろうろと、携帯を操作していない時の様に動いている。 何時もは、メールを読んでいる時に待ち受けキャラクターは表示されないのだが、 その時はなぜか表示され少し不思議に思いながらもメールを読んでいた。 すると 「とってもゆっくりしたもじさんだね!!!」 意味がわからなかった。 まあ、文字は動かないしゆっくりしているのかもしれない。 そんな事を考えているとれいむはおもむろに動き出し。 「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせ~♪」 目の前にいるれいむは口を動かしながら幸せそうな顔をしている。 一息つくと隣の文字まで移動してもう一度。 「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせ~♪」 2~3回その様子を見ていてようやく異変に気づいた。 文字が、れいむが通った所に表示されていたメールの本文が消えている。 まさかれいむが食べているのはメールの本文なのか? 俺は訳が判らなくなり、れいむを止めようと慌ててメールを閉じた。 メールを閉じ何時もの待ち受け画面に戻ったが、そこにれいむの姿はない。 れいむもそうだがメールも気になる。 ただ表示がおかしくなっただけならまだメールは無事かもしれない。 俺はもう一度メールを開いた。 メールは無事では無かった。 そこにはムシャムシャとメールの本文を食べ続けるれいむがいた。 「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせ~♪」 結局、大半の文字を食い尽くすまでどうする事も出来ず、 後に残された意味不明な文字列では内容を推測する事も出来なかった。 れいむは満腹にでもなったのかその場でゆーゆーと寝息を立てている。 その日はその後直ぐに電源を切った。 翌日 恐る恐る電源を入れる画面の中央に何時もと変わらない様子のれいむがいた。 「ゆっくりしていってね!!!」 昨日の事がありすこしイラッとしながらも もうメール食ったりするなよと心の中で言いながら携帯を閉じる。 「ゆっくりわかったよ!!」 なにか返事のようなものが聞こえた様な気がするが気のせい気のせい……。 その日の夜、食事を取りながら携帯を弄っていると、またもやれいむが不振な動きをしだした。 あっちへ行ったりこっちへ行ったり、顔の真ん中あたりをヒクヒクさせたり、口からはだらだらと涎を垂らしている。 「とってもいいにおいがするよ!!ゆっくりしていってね!!!」 臭い……臭いねぇ、そんな事わかるはずは無いのだが、一昨日から続く不可解な現象に一瞬信じてしまいそうになる。 「おにいさん!れいむおなかすいたよ!!」 そうだね、お腹空いたね、だからこうして食事を取っているのだけどね。 「おにいさんのほうからにおいがするよ!!ゆっくりそっちにいくよ!!!」 そーか、こいこい、これるもんならだけど。 そう言うとれいむはこちらを向き、少しずつ大きくなっていった。 今までやや右向きか左向きの顔しか見たことが無かったが、正面から見るとあまり可愛くない顔をしている。 それよりこっちに来るといったれいむはどんどんと大きくなっている。 これはひょっとしてこっちに向かって近づいてきているのだろうか……。 「ゆっくりいくよ!!ゆっくりしていってね!!!」 徐々に大きくなってくれいむの姿は、既に画面からはみ出るほどだ。 それでもまだ止まることなく大きくなり続けるれいむ。 遂に画面には顔半分程しか映ってない。 「ゆー、せまくてとおれないよ!!!」 こいつこんなにでかかったのか、しかも画面に写っている顔の一部がこちら側に盛り上がってはみ出している。 「ゆゆ!くすぐったいよ!!」 はみ出している部分を指でつつくと、携帯の液晶とは明らかに違ったぷにっとした柔らかい感触がする。 「ゆっくりひっぱってね!!!」 俺は言われるがまま、はみ出している部分をつまみ思いっきり引っ張った。 引っ張るとれいむはびみょ~んと伸び、徐々にではあるがこちら側に出てきた。 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛!!」 後ちょっとで顔半分が出るといった所で引っ掛かり、それ以上はなかなか出てこない。 引いてダメならもっと引く、つまんでいた部分を鷲掴みにして思いっきり引っ張る。 スポーンという音と共にれいむがこちら側に飛び出した。 「ゆっくりしていってね!!!」 まさか本当に出てくるとは、直径20cmはあるれいむが俺の部屋でゆっくりしていた。 「ごっはん♪ごっはん♪」 れいむはテーブルの上に上りそこにある俺の晩御飯のチャーハンに顔面から突っ込んだ。 「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせー!!」 「あっ!」 と言う間にチャーハンを平らげたれいむは満足そうにふんぞり返ってゲップをした。 部屋の中には甘ったるい臭いが広がる。 「ゆー!まんぞくしたよ!!」 そう言うとれいむは携帯の方に跳ねていき、携帯の画面に顔面を押し付けだした。 だが、出てきたときと同じ様に自力では中に入れず、俺に助けを求めてきた。 「おにいさん!ゆっくりおしてね!!」 押して欲しいなら押してやろう。 俺はれいむの後頭部に手をあて体重を掛けながら思い切り押した。 「ゆぎゅっ……ゆっくりおしてね!ゆっくりだよ!」 ゆっくりじっくりたっぷり押してやるよ。 ズボッとという音と共にれいむが携帯の中に入った。 「ゆっくりしていってね!!!」 台無しになってしまった晩御飯を片付けて、代わりにインスタント食品で晩御飯を作る。 食事を済ませて一息ついているとれいむが突然鳴った。 「プルルルルルル!プルルルルルル!デンワダヨ!!ユックリデテネ!!!」 携帯に表示されている電話番号はアドレス帳には登録されていない。 誰からの電話だろうと考えてみたが判らない。 そうこうしている間に10秒ぐらいはコールがあっただろうか。 段々とコールの音が小さくなっていく。 コールの合間にはれいむの息継ぎの音が聞こえる。 電話に出るとそれは良く知った友人からで、色々あって携帯の番号が変わったそうだ。 用件は番号が変わった事だけだったが、その後しばらくたわいも無い世間話をしていた。 「ゆふー……ゆふー……おにいさんゆっくりしすぎだよ……」 友人の声とは別にれいむの声も時折聞こえてくる。 話に加わりたそうにしているが、友人の方に聞こえていないようだ。 しばらく話をしていると、左頬をなにかにこすられている様な感じがした。 携帯を左耳に当てているので頬にも当たるのだが、携帯とは違うなにか柔らかいもので擦られている。 そういえばすこし前にもこんな感触のものがあったような気がする。 「す~り、す~り、すすすすすっきりー!!!」 ビクンビクンと痙攣が伝わり、擦られる様な感覚も痙攣もしなくなった。 友人と話を終え電話を切った。 突然便意を感じトイレに向かった俺は、手にれいむを忘れずに持っていった。 5分ほどで大き目の様を足し、携帯のカメラを起動し便器へと向ける。 「ピンピロリーン」 今日も体調はバッチリだ。取った写真は携帯に保存しておく。 俺のデータフォルダには既に毎日の健康状態が既に2年分ほど溜まっている。 「とってもゆっくりしてるよ!!!」 そういってれいむは涎を垂らすが、どういう意味なのかは判らない。 「プルルルルルル!プルルルルルル!デンワダヨ!!ユックリデテネ!!!」 再び掛かってきた電話に驚いた俺はついうっかり手を滑らせてしまう。 「プルルルルルル!プルッ!ガボッゴボガビュグビャイ!!!」 落とした携帯は浮いているティッシュペーパの上にのりゆっくりと水中へと沈んでいった。 急いでゴム手袋を装着しれいむを救助したがれいむは既に事切れていた。 おわり 作者:モテカワスリムの愛されレイーム(笑)大好きあき
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3979.html
『赤れいむを閉じ込めよう』 17KB いじめ 差別・格差 赤ゆ 人間なし QNQNできる赤れいむが書けない・・・。 既出ネタだったらごめんなさい ≪赤れいむを閉じ込めよう≫ 「(ゆ・・・きゃわいいれいみゅがもうちゅぐうみゃれちょうだよ・・・)」 赤れいむは母の額に生えている茎にぶらさがりながら、自分がもう直ぐ生まれるのだと実感していた。 「(れいみゅがうまれちゃら、まじゅはおおきなおきょえでおきゃあしゃんとおちょおしゃんにゆっくちあいしゃつしゅるよ。ちょってもきゃわいいれいみゅがうまれりゅんだから、きっとせいきゃいじゅうのゆっくちがしゅくっふくしちぇくれるよにぇ・・・。 そちちゃら、いっぱいしゅ~りしゅ~りしてもりゃっちぇ、おいしいあみゃあみゃをいっぴゃいちゃべちぇ、ゆっくちねむりゅよ・・・。 いっぴゃいっぴゃいゆっくちちちゃら、せかいじゅうのいきもにょさんをみんなきゃわいいれいみゅのめしちゅかいにしゅるよ・・・。れいみゅはとっちぇもきゃわいいから、きっちょみんなゆっくちよろこんでくれるよ・・・。 しょしちぇ、ちょっちぇもゆっくちできりゅまりしゃとけっきょんしちぇ、たくっちゃんのゆっくちできっりゅおちびちゃんにかきょまれちぇ、ゆっくちちあわちぇにくらしゅよ・・・。 ゆぴゅ・・・いまきゃらうまれりゅのぎゃたのちみじゃよ・・・。)」 赤れいむは自分のゆん生は絶対的な幸福とゆっくりに包まれているのだと確信していた。最高に可愛くて最高にゆっくりしている自分なら、絶対にゆっくりしたゆん生を送れるであろう・・・と。 それにしても、生まれる前から番や子供のことを考えるとはずいぶん気の早いゆっくりだ。れいむ種にとって愛するゆっくりと結ばれ子供を作るの事はそれ程ゆっくりできることなのかもしれない。 「(ゆ・・・!あちゃまのちぇっぺんがむ~じゅむ~じゅしちぇきちゃよ!れいみゅはみょううみゃれりゅんぢゃね・・・!まっちぇちぇにぇ!てんしのようにゃきゃわいしゃもみょつれいみゅがもうしゅぐうみゃれりゅきゃらにぇ・・・!)」 赤れいむはこの世に生まれ落ちるために体をゆさゆさと揺らし始める。既に産まれる準備が完全に整っていたためか、赤れいむの体は直ぐに茎から離れそのまま落下していった。 「ゆ・・・ゆ・・・ゆっくちちていっちぇね!!!!!」 赤れいむは落ちながらも満面の笑みを浮かべ大きな声で挨拶をした。沢山の希望を胸に詰め込んだ赤れいむの顔はとても幸せそうだ。 赤れいむの体はどんどん下に落ちていく。しかし、赤れいむには一切の不安も恐れも無い。それは両親と、ゆっくりできる自分ならばという信頼からでもあったし、単にバカだからという事もある。 そして、赤れいむの想いは簡単に打ち破られた。赤れいむを受け止めてたのは本来親ゆっくりが出産のさいに敷いておく柔らかくて優しい敷物等ではなく、硬くて冷たい水槽の床だった。 「い・・・いぢゃいいいいいいいいいいいい!!!!ぷりちぃなれいみゅのあんよしゃんぎゃいちゃいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」 硬い床に落とされた赤れいむは揉み上げをピコピコと振り回し大声で泣き喚く。脆弱なゆっくりの中でも更に脆い時期にいる赤ゆっくりは、痛みへの耐性も驚くほど低い。 そんな赤れいむが硬い床へ落下した衝撃に耐えられるわけもなく、おしりをもるんもるんと振りしーしーをまき散らしながら暴れ散らす。 そして、その餡子の中では様々な考えが廻りにめぐっていた。 なぜゆっくりできる自分がこんな目にあっているのか?両親が受け止めてくれるのではないのか?自分は祝福されながら産まれるはずではなかったのか? 何故自分が泣いているのに両親は何もしてくれないのか?ゆっくりしている自分が痛がってるのに何故誰も自分を助けてくれないのか? ゆっくりしている自分がゆっくりできてないなら誰かが来てゆっくりさせてくれるのが当然なのではないのか? 痛みに支配された赤れいむの頭の中でそういった疑問が浮かんでは消え、また浮かんでは消えていった。 「いぢゃいよおおおおおおおおおおおおお!!!ゆっくちできにゃいいいいいいいいいいいいい!!!ゆっくちちゃちぇてええええええええええええええええええ!!!!」 赤れいむは只々泣き喚く。単に痛いからというのもあるが、こうしていれば誰かが助けてくれるはずだという甘えが大部分を占めていた。 だが、どれだけ泣いても赤れいむを慰めに来てくれる者はいなかった。 「ゆっぎゅ・・・・ゆっぐぢ・・・・ゆっぐぢ・・・・・いぢゃい・・・・ゆっぐぢ・・・」 暫く経つと赤れいむを大声で泣くのをやめ、静かにすすり泣いていた。 「どぼぢで・・・・ゆぐっ・・・・どぼぢでだれもれいみゅをゆっくちちゃちぇてくれにゃいの・・・?れいみゅが・・・いちゃがっちぇりゅんだよ・・・・?なんぢぇ・・・・どぼぢぢぇ・・・?」 痛みが引き、落ち着いてきた赤れいむは先程から考えていた疑問を言葉にする。しかし、相変わらず誰も答えてはくれない。 「おちょうしゃん・・・・おきゃあしゃん・・・どきょにゃの・・・?きゃわいいれいみゅがいちゃがっちぇるよ・・・?ぺ~りょぺ~りょしちぇよ・・・。しゅ~りしゅ~りしちぇよ・・・。」 赤れいむは自分の両親を探して辺りを見回す。この水槽の中には多種多様のゆっくりがいた。 まりさ、ありす、ぱちゅりー、ちぇん、みょんの合計五匹。五匹は円を描くようにして並び、互いに向かい合っていた。一匹と一匹の間は赤ゆっくりでさへも通れないような大きさの隙間しか空いていない。 赤れいむは自身の餡子の中にある記憶からその中には自分の両親は居ないと感じた。しかし、その五匹以外にこの場にあるのはゆっくりできそうもない黒い塊だけ。 赤れいむは不思議に思ったが、3秒考えても分からないので考えるのを止めることにした。 「ゆ!!どぼじでぢゃっぎれいみゅをうげぢょめでぐれなぎゃっぢゃの??!れいみゅとっちぇもいちゃきゃっちゃんだよ!!!!おわびちょしちぇあみゃあみゃをもっちぇきちぇね!!!しゅぎゅでいいよ!!!」 赤れいむは涙を目に溜めながら眉毛を吊り上げ目を大きく開き、五匹のゆっくりを怒鳴りつける。先程までめそめそと泣いていたのが嘘のようだ。 しかし、五匹は赤れいむの問いかけを無視し、互いに向かい合いながらゆっくりとできる笑顔を浮かべ合っていた。その笑顔を向ける対象の中に赤れいむは入っていない。 「どぼじでむぢぢゅりゅのおおおおおおおおおおおおおおおおおお????!!!!!れいみゅおこっちぇりゅんだよおおおおおおお!!!!ぷきゅううううううううううううううううううううう!!!!!」 無視されたことに腹を立てた赤れいむは威嚇行動である『ぷくー!』をする。しかし、五匹は相変わらず赤れいむを無視している。視線を向けることさえしない。 「ぷひゅぅぅ・・・・。ゆぴゃああああああああああああ!!!!むちしゅりゅにゃああああああああああああああああああああ!!!!!!」 五匹のゆっくりに無視された赤れいむは大声で喚き散らす。 なぜ自分を無視するのかという疑問が赤れいむの頭の中をぐるぐると駆け巡る。 「なんぢぇみんにゃれいみゅをむちちゅりゅにょおおおおおおおおおおおおおおおおお???!!!ちょうっぜちゅぷりちぃなれいみゅがよんぢぇるんぢゃよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! きょんなきゃわいいれいみゅとはなちぇるにゃんてちょっちぇもきょうっえいなきょちょでちょおおおおおおおお??!!!!!!!!!むちちゅりゅにゃんてばきゃにゃの??!!!しにゅの??!!!」 五匹はその問いかけにも答えない。只々互いに笑顔を向け合いゆっくりとしている。 「ゆっびゃあああああああああああああああああ!!!!!ぢゃきゃらむちちゅりゅにゃあああああああ!!!!!!!れいみゅぎゃかわいいきゃらってしっとちないじぇね!!!!!」 そんな五匹に対して赤れいむはとにかく怒鳴り続けた。飛び跳ねたり揉み上げを振り回したりしてとにかく自分の存在を表し続けた。 それでも五匹は何も言わないし何もしない。まるで赤れいむ等最初から存在していないかのように。 「ゆびぇええええええええええええええええええええええん!!むちちないじぇえええええええええええええ!!!!だれきゃれいみゅとおはなちちちぇよおおおおおおおおおおおおお!!!!」 赤れいむは誰からも構ってもらえない悲しさからか高圧的な態度を止め、ジタバタと暴れながら強請るように泣き始める。 それでも五匹は何もしない。表情を変えることさえもしない。 「ゆびゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」 赤れいむの大きな叫びが水槽の中に響きわたる。 それでも五匹が赤れいむと言葉を交わすことはなかった。 それから数分後。 赤れいむは再び静かにすすり泣いていた。 「ゆぴっ・・・・。ゆぎゅ・・・・えぎゅ・・・・。どぼぢぢぇ・・・・・。どぼぢぢぇみんなむちちゅりゅの・・・・・・。しゃみしいよ・・・・。にゃんじぇ・・・・れいみゅを・・・ゆぎゅ、・・・ゆっくち・・・ちゃちぇてくりぇにゃいの・・・?」 赤れいむは精神的にかなりのダメージを受けていた。 ゆっくりというのは自分を特別な存在だと信じきっている一方で、孤独に対してかなりの弱さを誇る。 特に生まれたばかりの赤ゆっくりともなれば他者への依存はかなり強く、それが親と話せないどころか他のゆっくりとも会話できないともなればその精神的負担は相当だろう。 更には『周りに誰も居ないから話せない』のではなく、『周りに他のゆっくりがいるのに話せない』そして『自分以外のゆっくりは皆楽しそうにしている』という状況が赤れいむを更に孤独へと追いやっていた。 もし赤れいむが周りに誰もいないという状況下に置かれていたとしたならば、赤れいむは他者と会話できない理由を自分がいる環境に押しつけ言い逃れすることが出来ただろう。 しかし、赤れいむの前には確かに存在するのだ。他のゆっくりが、会話できるはずの相手が、互いに楽しそうにしているゆっくり達が。 その状況下にいて尚且つ赤れいむだけ誰とも話せないという苦痛、孤独、哀しみ。孤独に対して弱いゆっくりがそれ程の孤独の闇へと放り出される苦しみはとても言葉で言い表せるものではない。 「ゆっぐ・・・えっぐ・・・・・・ゆっぐぢざじぇでぇ・・・・・。・・・・・ゆ?」 五匹のゆっくり達を恨めしそうに、羨ましそうに見ていた赤れいむの目に五匹の中心に置かれている物がチラリと目に入った。 赤れいむは目を凝らしてそれが何なのかを見てみた。答えは直ぐに分かった。 「ゆ!!ありぇは、あんこしゃんだよ!!」 五匹の中心にあったものは、ゆっくりにとって最大の喜びの一つであるあまあまだった。 なんの教育も受けていない子れいむだったが、自分の体が餡子で出来ていることもあってか、餡子の存在とそれがあまあまである事は直ぐに分かった。 そして、あまあまを見た赤れいむは孤独の寂しさを忘れることができたのか、顔をキラキラと輝かせていた。 「ゆ!まっちぇちぇねあみゃあみゃしゃん!!!いみゃしゅぐれいみゅがたべちぇあげりゅきゃらね!!」 赤れいむは明るい顔をしながら餡子に向かってゆく。今までは無視されていた悲しみのせいで忘れていた空腹だったが、大好きなあまあまを見つけた瞬間自分が今まで何も食べていなかったことを思い出し、 そして、その苦痛を今からあまあまという最上のゆっくりで埋められることに幸福を感じていた。 赤れいむは円を組んでいる五匹の直ぐ傍までやってきた。そして、相変わらず自分に目を向けようとさへしない五匹の姿を見ながら、優越感に浸った笑みを浮かべた。 「ゆぴゅぴゅ・・・・このげしゅどみょはどうしようみょにゃいおびゃきゃしゃんにゃんだねぇ・・・!あみゃあみゃはたべちぇこしょゆっくちできしゅにょに、しょれをみちぇるだきぇにゃんちぇ・・・。 ゆふん・・・、れいみゅがあみゃあみゃをたべちぇゆっくちしてりゅのをくやししょうなおきゃおでみるのぎゃめにうきゃぶよ!でも、じぇったいにわけちゃなんきゃあげにゃいよ!! だってれいみゅをじゅっとむちちちぇしちゃんだきゃらね!!これはいんぎゃおうっほうってやちゅだよ!!ゆぴゃぴゃ!おおきなおきょえでむ~ちゃむ~ちゃしあわちぇ~っていっちぇあぎぇるきゃら、 げしゅぢょみょはゆっくちくやしがっちぇいっちぇね!!!」 そんな赤れいむの声が聞こえてきそうな笑みだった。 れいむは意気揚々と二匹のゆっくり(ちぇんとみょん)の間を潜っていこうとする。 しかし、赤れいむは忘れていた――最初から気づいていなかったかもしれないが――五匹のゆっくり達の間は赤ゆっくりですら通れない隙間しか空いていないということを。 「ゆんしぇ・・・・ゆんしぇ・・・・・!・・・・・?!・・・・ゆぐぐ・・・・・・ゆっぐぢ・・・どおれにゃいよ・・・・・。」 赤れいむは必死にちゃんとみょんの間を通っていこうと、お尻をもるんもるんと振りながら懸命に進もうとする。 しかし、通れない。一分程挑戦してみた赤れいむだったが、通れそうもないという事を悟ると頭をちぇんとみょんの間から引き抜き、二匹の後ろに立った。そして、二匹をギッと睨みつけながら、 「しょこをぢょきぇえええええええええええええ!!!!れいみゅがあみゃあみゃしゃんをちぇべりぇにゃいでしょおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」 そう大声で叫び、無視された。赤れいむは自分が無視されていることを思い出すと、忌々しげに五匹を睨みつけながら悔し涙を流した。 「ゆぎゅ・・・・・あみゃあみゃしゃん・・・・。れいみゅのあみゃあみゃしゃん・・・・。」 あまあまの事を想うと、赤れいむはお腹と胸がキリキリと痛むような感覚に襲われた。 「(ゆ!!にゃんときゃしちぇあにょげしゅぢょもきゃらあみゃあみゃをとりきゃえしゅよ!!まっちぇっちぇねぇ、あみゃあみゃしゃん!!!!ゆぅ・・・ぢぇも、どうちゅりぇびゃ・・・。)」 赤れいむは自分を虐めるゲス共から、愛しのあまあまを取り返すために少ない餡子を搾って考えた。 そして、何かを閃いたかのように急に顔を輝かせた。 「ゆっ!!!しょうぢゃよ、きょうしゅればいいんじゃよ!!!ゆぴゅぴゅ、れいみゅっちぇばてんっちゃいじゃにぇ!!ゆうしゅうでぎょめんにぇー☆彡」 という声が聞こえてきそうな顔だった。 赤れいむは五匹の方を振り向くと、眉毛をキリッ!っと吊り上げ、 「ゆ!いまきゃられいみゅがとくべちゅにちょっちぇもぷりちぃなぴょーずをとっちぇあぎぇるりょ!!!しょれでゆっくちできたりゃ、れいみゅにあみゃあみゃしゃんをちょうだいね!!!」 そう五匹に命令した。何という赤れいむらしい作戦であろう。 勿論、五匹からの返答は無い。だが、もう慣れっこなのか赤れいむは無視されていることを気にせず、自分の作戦()の素晴らしさに酔っていた。 「ゆ!!しょれじゃあいきゅよ!!!れいみゅのきゃわいしゃに、ゆっくちみとれちぇいっちぇね!!!!」 子れいむは横をむき、『ゆっ・・・・、ゆっ・・・・、ゆっ・・・・、』と言いながら数回ぴょんぴょん跳ね、体を90度グネッっと回転させると片方の揉み上げを額に当てながら 「きゃわいくっちぇぎょめんにぇー☆彡」 と、とてもとてもうざったらしいポーズを取った。 「(ゆ!きまっちゃよ・・・!これじぇあみゃあみゃはれいみゅのものじゃね!!!)」 子れいむは内心でそう思った。しかし、五匹がとった態度はれいむを褒め称えるでも罵倒するでも無く、相変わらずの無視。 「・・・ゆ?にゃにしちぇりゅの・・・・れいみゅ、きゃわいきゃっちゃよね・・・?」 赤れいむは自分の渾身の可愛さアピール()までもが無視された事に不安を覚え、オロオロと五匹を見渡す。 「・・・ゆ!じゃ、じゃあちゅぎはおうちゃしゃんをうちゃうにぇ!!」 戸惑っていた赤れいむだったが、気を取り直して別の可愛さアピールで挑戦してみることにした。 「ゆ~♪ゆっくちのひ~♪まっちゃりのひ~♪しゅっきちのひ~♪」 耳の中に水が溜まった時の不快感を思い出させる歌声で歌いだした赤れいむ。れいむ種にとってのゆっくりの代名詞とも言えるおうた。恐らくは餡子からゆっくりできるものとして引き継がれてきたのであろう。 そして、おうたを一通り歌い終えた赤れいむは再び自身満々に眉毛をキリッ!!とさせ、 「ゆ!ちょっちぇもゆっくちできちゃでちょ!!!」 と、言った。勿論、無視された。 「ゆ・・・・ゆ・・・・!ちゅ、ちゅぎはこ~りょこ~りょしゅるよ!!!」 無視された。 「にょ、にょ~びにょ~びしゅりゅよ。」 無視された。 「みょ、みょみあぎぇしゃんを・・・・ぴ~こぴ~こしゃしぇるよ・・・。」 無視された。 「ゆぎゅ・・・・。みょみあぎぇしゃんを・・・ゆっぐ・・・。わしゃわしゃ・・・ぎゅしゅ・・・。しゃしぇるよ・・・。えぐ・・・・。」 無視された。 「れいみゅ・・・・・きゃわいいよにぇ・・・・・・・・?」 無視された。 無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。 無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。 無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。無視された。 「・・・・ゆっぐ・・・。れいみゅ・・・きゃわい・・・ゆっぎゅ・・・・。」 赤れいむの自分の可愛さの自信は、徐々に徐々に崩壊していった。 そもそも生まれてから誰からも、親からも可愛い等と一言も言われていない赤れいむに、自分を可愛いと想う根拠は種としての本能以外何もない。 それは積み木で組み立てられた塔みたいなもの。僅かな刺激ですぐに崩れ落ちてしまう。しかし、その塔もまだ完全には崩れきっておらず、僅かに、ほんの僅かに支えられているものがあった。 「(みょう・・・ありぇしかできりゅことぎゃにゃいよ・・・・。ぢぇも・・・・・・ぢぇもぉ・・・・・。)」 赤れいむが最後の最後までやりたく無かったあること。それは赤れいむにとって命と同じくらい大切なモノ、れいむの自身を支えている最後のモノ。 絶対に避けたかった事。しかし、赤れいむの空腹ももう限界が来ていた。このままでは餓死してしまうだろう。 今までの全ての可愛さアピール()が通じなかったれいむには、最早それを差し出す以外方法が無かった。死なないために、自分の一番大切なそれを差し出すしかなかった。 「ゆっぐ・・・えっぎゅ・・・・。ゆっぐぢ、ぎいぢぇね・・・・。」 赤れいむは仰向けになると、自分のまむまむに両方の揉み上げをあて、そして、まむまむをクパァと開いた。 「れいみゅと・・・・しゅっぎぢぢでいいでぢゅ・・・・・。れいみゅの・・・・。れいみゅのばーじんじゃんをもらっでぐだぢゃい・・・・。ぞじだら・・・・・・ぞじだら・・・・あばあばざんを・・・・、あばあばざんをぐだざい!!!! ・・・・・・・・・・・ゆぐううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!!」 赤れいむの目から、涙がとめどなく溢れ出してきた。 生まれる前から大好きでゆっくりできるまりさをお婿に迎えると決めていた赤れいむ。自分の大好きなまりさに捧げるのだと決めていたばーじんさん。それは、赤れいむが最も強く望んだもの。生きる意味だった。 そんな自分の夢を、生まれてきた意味を、夢や希望を、自分を苦しめるゲス共に、あたかも自分から強請るかのように与えなければならない屈辱、絶望。 赤れいむの目から流れてくる涙は、赤れいむの中から希望と夢を全て洗い流すかのように溢れてきていた。悔しく、哀しくて、苦しくて・・・・。 が、ガン無視。 一片の視線すら向けない徹底した無視。赤れいむの決意や悔しさなど存在しないかのような無視。冷徹、残酷、横暴な無視。 「・・・・・・・・・・・・・・にゃん・・・ぢぇ・・・・・・・・・・・・?・・・・・・・・・・・どぼじぢぇ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」 自分の全てを捧げたのに、それでも続く無視。生まれてから延々と続いてきた無視。赤れいむの心を、再び孤独の闇が支配していった。 「ゆ、ゆぴぴぴぴ・・・・・・・・・・。ゆぴゃぴゃぴゃぴゃ・・・・・・・・・・。」 赤れいむの瞳から全ての光が消え去った。赤れいむの自信は、精神は、完全に崩れさった。 赤れいむは狂ってしまった。もう、狂うしか無かった。 「ゆぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃ・・・・・・。」 赤れいむは死ぬまで笑い続けた。涙はもう、枯れていた。 終わり 今までに書いたもの anko3588 受け入れられない anko3595 横暴 anko3600 踏みにじる anko3608 餡子の雨 anko3628 約束 anko3657 消えたまりさ anko3660 犠牲 anko3714 謝罪 anko3833 レイパーありすを閉じ込めよう
https://w.atwiki.jp/hutaba_ranking/pages/132.html
・れいむが死にません。 ・エロくありません。 ・最近れいむいじめがひどかったんで、れいむ愛でモード突入中。 ・仕事の都合もあって製作ペースが戻らないので、まだまだリハビリが必要な感じです。 『飼いゆっくりれいむ』 D.O 我が家は、築100年を軽く超える古風な木造家屋である。 爺さんの若かった頃は農業をしていたとのことなので、蔵もあれば庭もあり、 さらにその周囲は生垣をはさんで小さな林まで広がっている。 外から見れば、歴史の重み、どころか幽霊屋敷の雰囲気漂わせていることだろう。 現在の主である私が手入れを怠っているので、庭はコケと背の高い雑草が生い茂り、生垣も所々穴が開いているからなのだが。 私が子供の頃は、周囲にまだ多くの農家も残っていたが、 十年ほど前に、ゆっくりの大規模な襲撃が起こり、すっかり疲弊してしまったようである。 もう少し山に近い田舎に立ち上がった、のうかりんを使った実験農場計画が始まった頃に多くの農地は売却され、 実験農場が順調な現状を考えると、このあたりも数年後にはのうかりん印の農場になりそうだ。 現在では町、というには空き家が多すぎる、少々寂しい地域となってしまっている。 そんなある日、仕事から帰ってみると、 庭にサッカーボールサイズと、テニスボールサイズの饅頭が一つづつ落ちていた。 日が暮れているので良く見えないが、赤白リボンの奴はたしかれ・・・れ?ゆっくりだ。 「ゆゆっ!おにーさん、ゆっくりしていってね!」 「ゆっくちしちぇっちぇにぇっ!」 「・・・・・・。」 家の電灯に照らされてみれば、薄汚れていて何ともゆっくりしていない奴等である。 少なくとも、見ているこちらとしてはゆっくりできない。 親子なのは間違いなさそうだが、親の方は全身余すところ無く、 マジックで唐草模様が描き込まれているあたり、町からやってきたのは間違いないだろう。 「にんげんさん、れいむはしんぐるまざーなんだよ!」 「へぇ・・・。で?」 「かわいそうなれいむたちを、ゆっくりかっていってね!」 「きゃわいくってごめんにぇっ!」 「・・・はぁ。」 なんだか、やり遂げた表情でこちらを見ている。 刈って、狩って、・・・いや、飼っていってね、か? どうやら、こんなにゆっくりしたおちびちゃんなんだから、人間さんも飼ってくれるに違いない、ということらしい。 とりあえずサンダルの裏を、その自信満々の顔面に押し当てて、塀の方に転がしてやることにした。 「ゆべしっ!」 「ゆぴぃぃいい!」 「・・・ペッ!」 噛んでいたガムが母れいむのリボンにジャストミートする。 「・・・・・・飯作ろ。」 別にゆっくりとやらに大した関心はない。 単に、コソコソ隠れているなら可愛げもあるが、ずうずうしさが気に入らなかっただけである。 これまでも野良猫やらなんやら、しょっちゅう仮の宿に使われていたので、 今更ゆっくりが庭に舞い込んだところで気にしない。 糞をばら撒かれないだけ、犬猫よりはありがたいくらいだ。 庭に住みたきゃ勝手に住めばいい。 こちらには当然世話する義務なんぞ無いのだから。 「ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛・・・・」 「ゆっくりー!」 痛みから回復したれいむ親子の方は、感動に打ち震えていた。 なにせ気がついたら、母れいむのリボンにペタリとついているのは、あの憧れの飼いゆっくりバッジ。 れいむも遠くで見ていたときは気づかなかったが、バッヂがまさか人間さんが口から吐き出されたものだったとは。 まあ、自分達もナワバリ(無意味極まるが)にしーしーでマーキングすることは多いのだから、そういうものなのだろう。 ・・・などと考えながら、リボンにへばりついたガムを、嬉し涙に潤んだ目で眺めていた。 そう、れいむはついに、ゆっくりの中でも最もゆっくりできると言われる、 あの飼いゆっくりにしてもらえたのであった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 翌朝。 便所から出て縁側を歩いていると、庭の隅に放置していた木箱から、れいむ親子が飛び出してきた。 「「ゆっくりしていってね!!!」」 「ん?まだいたか。」 朝からうるさい奴らだ。やはり猫の方がましだな。 「ゆーん。おにーさん、れいむたちにあさごはんちょーだいね!」 「ちょーらいにぇっ!」 昨日のゆっくり共が、これから仕事に行くという時に、なんだかずうずうしくゆぅゆぅ鳴いている。 「・・・・・・庭の草でも花でも、自分で適当に食え。」 「ゆゆっ!?おはなしゃん、たべちぇいいにょ?やっちゃー!」 「ゆーん、ごはんさんいっぱいだよ~。」 勝手に住むのはかまわんが、ゆっくりフードたら言うものまで買ってやる気など無い。 というか、ペットでもないのにいちいち飯などやらん。 「むーしゃ、むーしゃ。しあわせー。」 「むーちゃ、むーちゃ。ゆ・・ゆぇーん。」 「どうしたの、おちびちゃん。」 「れいみゅ、こんにゃにむーちゃむーちゃちたの、はじめちぇ。」 れいむ達は、飼い主であるおにーさんの愛情を全身で味わっていた。 なにせ、適当に食え、と言って指差した庭には、 柔らかそうなゆっくりした草、 タンポポやシロツメクサの類の雑草寄りの花、 背の低い木には実や柔らかい葉っぱ、 それに、今は何も成っていないが柿やビワの木も生えており、季節が来たら食卓を飾ってくれることだろう。 当然昆虫やミミズも、その気になれば取り放題だ。 ここは、森の中にあったとしたら、数十匹のゆっくりを余裕をもって支えることができる最上級の狩場であった。 それらが全て、この2匹だけのためのごはんだと言うのである。 「おにぃさぁん、ありがとぉぉぉおおおぉぉ。」 そんなある日、夕食の生ゴミを袋に入れて、裏庭のポリバケツに入れようとしたところ、 ゆっくり共が、よだれを滝の様にたらしながらこちらを見ていた。 ・・・・・・そういえば、今都会では『ゆっくりコンポスト』なるものがはやっていると聞く。 正直言って生ゴミを貯めこむのは嫌だし、こいつらでも使ってみるか。 「・・・食え。」 翌朝、袋の中身がきれいさっぱりなくなっていた。 袋に何かが入っていた形跡すら無い。よだれらしきものでベタベタではあるが。 「ゆっくちちたおやさいしゃんだったにぇっ!」 「おにーさんにありがとうってするんだよ。」 「ゆっくちりきゃいしちゃよ。」 「なるほど。こいつは便利だ。」 それからというもの、あの親子は毎日ポリバケツに放り込むはずだった生ゴミを、おやつだと大喜びで食べている。 生ゴミを放置しすぎて増えていたりぐるとかも減った。 生ゴミがなくなったからか、りぐるも食べているのか・・・ しばらくすると、いちいちこいつ等が『おうち』とやらにしている、庭の隅の木箱まで生ゴミを持っていくのもめんどくさくなってきた。 まずは縁側の下に少し穴を掘り、用済みとなったポリバケツを横倒しにしてはめ込む。 ポリバケツの内側に土をいくらか入れ、周囲の穴との隙間にも土を詰める。正面から見るとパッと見トンネルのような感じだ。 あとはあのゆっくり親子を中に放り込んで、自家製コンポストは完成。 「ゆわーい。きょきょはれいみゅたちのおうちなんだにぇ。」 「ゆっくりー!おにーさん、ありがとう!」 なんかぽいんぽいんと跳ねて喜んでいるが、台所からも食卓からも近いここが、 生ゴミを放り込むのに適していただけだ。 「ん、で、あと何が必要だ?」 「「ゆぅ?」」 なんといっても、使い道ができた以上、もはや野良猫と同等ではない。 金をかけてやるつもりはないが、それなりのメンテナンスはしてやろう。 コンポストとしてある程度長持ちしてくれなければ困るからだ。 「ゆ、ゆぅーん!れいむはみずあびができたらうれしいよ。きたないとゆっくりできないよ。それと・・・」 「それと?」 「おちびちゃんにも、ばっじさんがほしいよ!おちびちゃんもかいゆっくりのばっじさんがほしいよ。」 水浴びか。なるほど、こいつ等が饅頭のくせにカビないのは不思議だったが、やはり不潔にしておくのはよろしくないといったところか。 こっちとしても軒下にサッカーボール大のカビ饅頭があるのは気分が悪い。自分たちで清潔にしてもらおうか。 あとは・・・ん?おちびちゃん・・・にも? ・・・・・・妙に馴れ馴れしいのも合点がいった。まさか飼われているつもりだったとは。 まあ、使い道がある今となっては都合がよくもあったが。 「水は、そうだな。このタライに水を入れといてやる。勝手に使え。」 「ゆっくりー!」 「それと・・・バッジねぇ。ああ、あれでいいか。」 持ってきたのは、私が中学生時代に学生服につけていた、襟章だった。 鈍く銀色に光る襟章、どうせこいつ等がバッジとやらを活用する日は来ないのだから、これで十分だ。 リボンに乱暴にネジ式の襟章を突き刺して固定すると、赤色の中に鈍く光る銀色は、思いのほかしっくりときた。 「ゆわーい!ゆっくちちたばっじしゃんだー!」 「ゆぅぅ、よがっだねぇ、よがっだねぇぇえ、おぢびじゃぁぁああん。」 喜んでもらって何よりである。この調子で雑草むしりと生ゴミ処理を頑張ってもらいたいものだ。 翌日には、縁側下のコンポストの近くに「おといれ」と称してうんうん用の穴も掘っていた。 生活の場に排泄物を置いておくのはやはり嫌なのか。だが、これはこちらとしても都合がよかった。 このうんうんという排泄物については、定期的に土と雑草に混ぜて花壇の肥料にしている。 なかなか良質なようで、しかも採集の手間も要らないしありがたいものだ。 「ゆーん、おにーさん。おといれのおそうじしてくれてありがとう。」 「うんうんがなくなっちぇ、ゆっくちできりゅよ。」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− こうしてれいむ親子がコンポストとなった数日後、家の庭に最近ご無沙汰だった来客が来た。 「ねこさんだぁぁあああ!ゆっくりできないぃぃぃ!!」 「ゆぴぃぃ、おきゃあしゃんこわいよぉぉ!」 「ん、ああ、トラか。久しぶり。」 生垣の穴から庭に入ってきたのは、近所で気ままな野良生活を送っている猫だ。 こいつに限らず、我が家を通り道にする猫は多い。 「ゆぁぁぁぁ、おにーさぁぁん。ねこさんこわいよぉぉぉぉ。」 「ゆっくちさせちぇぇぇぇ。」 「・・・嫌なら自分でなんとかしろ。」 「「ゆぅぅぅ、ゆっくりできないよぉ。」」 別にサッカーボールサイズの良くわからん物体にじゃれつく様な、酔狂な猫達でもないが、 町生活でトラウマでもあるのか、度重なる猫の襲撃に、れいむ親子は自分達で何とかすることにしたようだ。 数日後から、徐々にだが、目に見えて生垣の穴がふさがり始めた。 「ゆーえす!ゆーえす!」 「おきゃーしゃん、はっぱしゃんもってきちゃよ。」 「じゃあおちびちゃん、このすきまにはっぱさんをおしこんでね。」 「ゆっくちりきゃいしちゃよ。」 生垣や塀の隙間に、小石を詰め、小枝を刺し、上から土を盛って、また葉っぱや枝を詰める。 近くで見るとやはり幼稚園児の工作の域を出るものではないが、遠目には生垣に溶け込んで見えなくも無い。 何重にもゴミを積み上げているので、強度のほうはちょっと蹴りを入れたくらいでは吹っ飛ばないくらいになっていた。 「これでねこさんはいってこれないね!」 「ゆっくちー。」 「にゅぁ~ん・・・ぐるるる。」 ・・・・・・。 「「どぼぢでねござんはいっでるのぉぉぉおお!?」」 「・・・塀の上からだろ。」 まあ一応は通りにくくなったので、特に頻繁にここに来る数匹以外は入ってくることも無くなり、 多少は平穏になったようだ。 それにしても、なんだか最近庭がきれいになってきた気がする。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 生垣の穴がれいむによってあらかた埋まった数日後、 久しぶりに友人が家まで遊びに来た。 「ゆゆっ!?おにーさんのおともだち?ゆっくりしていってね!」 「ゆっくちしちぇっちぇにぇ。」 「おー、間知由。お前ゆっくり飼ってたんだな。エラい装飾過剰だけど。」 「いや、飼ってないし、あの唐草模様は来たときからだ。俺の趣味じゃない。」 「ふーん。つってもバッジついてんじゃん。」 「ありゃガムだ。」 「え゛・・・。」 「ああ、みかんの皮は庭のポリバケツに放り込んどいてくれ。」 「え?これってこいつらのおうちだろ?」 「いや。コンポスト。」 「んー。・・・え゛ぇ?」 「ゆわーい、おやつだにぇ!ゆっくちありがちょー。」 「むーしゃ、むーしゃ。しあわせー。」 ついでに、夕食の魚の骨も放り込んでおいた。 「ぽりっ、ぽりぽりぽり・・・ゆっくりー!」 「・・・・・ふーむ。」 「どうした?」 「いや。ゆっくりって、案外飼いやすい生き物なのだろうかと思ってな。」 「ただの饅頭だろ。・・・・・・何だよ、その目は。」 「まったく。世の中にはどんだけ愛情注いでも懐かれない奴もいるってのに。」 「そんなもんかね。」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− そして、庭が放置しっぱなしの幽霊屋敷状態から、見違えるようにきれいになった頃、 れいむ達の平穏な毎日に、突然不幸が舞い降りてきた。 「Zzzzzz・・・。」 「すーや、すーや。」 今日は日曜日。おにーさんも日当たりの良い縁側で昼寝中。 れいむ親子も庭に生えた木の木陰でゆっくりと惰眠をむさぼっていた。 そのとき庭に、普段と違う空気が漂う。 「うー。」 「ゆぅ?・・・すーや、すーや。」 「あまあまー。」 「ゆ・・・すーや、すーや。・・・・・・れみりゃだぁぁぁああああ!!!」 庭に突然飛来したのは、本来夜行性のれみりゃ(胴無し)。 庭のすぐ奥にある林は、昼でも薄暗く、たまに昼でも活動するれみりゃが現れたりする。 しかも、このあたりは農家だったこともあり、害ゆ対策として、れみりゃを大量飼育していた時期もあったので、 最近森の奥でしか見なくなったれみりゃ種もチラホラいたりするのだ。 「おちびちゃん、ゆっくりにげるよ!」 「ゆあーん。れみりゃはゆっくちしちぇにぇ。」 ぽよん、ぽよん、と大急ぎでおうちに飛び込むれいむ親子。 れみりゃは追ってこなかった。どうやら助かったようである。 しかし、一つだけ気がかりがあった。 「ゆぅぅぅ、おきゃーしゃん、れみりゃはゆっくちできにゃいよぉ。」 「ゆ!おちびちゃん。ここはおにーさんがつくってくれたおうちだから、れみりゃなんてはいってこれないよ!」 「ゆっくちー。でみょ・・・。」 「おちびちゃん?」 「おにーしゃん、すーやすーやしてたよ?れみりゃにゆっくちひどいことされてにゃい?」 「ゆゆっ!?」 「そろーり!そろーり!」 おにーさんの無事を確かめるべくおうちから慎重に這い出るれいむ。 見つかったら命はないだけに、そろーりそろーりにも力が入る。 そして、れいむは驚愕の姿を目撃した。 「うー!うー!」 「Zzzzzz・・・・、じゃま・・・」 ・・・・・・れみりゃがおにーさんにじゃれていた。 「ゆぁぁぁああああ!おにーさんがたべられるぅぅぅううう!!!」 「うー?」 「やめてねっ!おにーさんをたべないでねっ!れみりゃはゆっくりどっかいってね!!」 ゆっくりしたおにーさんを助けるべく、れいむはれみりゃに立ち向かう。 しかし、口にくわえた木の枝をどれほど振り回しても、空を舞うれみりゃ相手には届かなかった。 「ゆぅ、ゆぅぅ、どうしてとどかないのぉぉ。」 「うー!あまあまー。がぶり。」 「ゆひぃぃぃぃ、れいむのあんこさんすわないでぇぇぇぇ・・・。」 「おきゃあしゃぁぁあん、ゆっくち、れみりゃはゆっくちしちぇぇぇぇ!」 「お、肉まん。」ぱさり。 「うー!うー!」 といったところで目が覚めたおにーさん。 玉網を使ってあっさりとれみりゃを捕獲したのであった。 それにしても、生ゴミを処理して肥料を作り、 庭の管理までやってくれた挙句、夕食のおかずをおびき寄せてくれるとは、 つくづく使いでのあるコンポストだ。 つい今さっきまでたっぷり飯を食っていたこの肉まん、中身がが詰まっていてうまそうだな。 「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ」 「おきゃーしゃん、ゆっくちしちぇぇぇぇ。」 ザックザックザック 薄っぺらくなった方のれいむには、中身を詰めなおしてやることにする。 掘り出したのは、「おといれ」とやらになみなみと貯められた餡子。 こいつを、中身の減ったれいむの口からねじ込んでやることにした。 「ゆ゛っ、ゆぼぉっ!おにーざん、やべでぇ、ゆっぐぢでぎなっ!ゆぼっ!」 「おにーしゃん、やめてあげちぇにぇ!おきゃーしゃんがいやがっちぇるよ。」 無視。餡子は餡子だ。多少土が混ざっているが、中に詰めなおしてやれば問題ないだろう。 「ゆ゛っ、ゆっぐぢしていってね。ゆげぇ。」 「やっちゃー!おきゃーしゃん、げんきになっちゃよ。」 「ゆ、ゆぅぅ・・・おにーさん、ありがとぉ・・・。」 「しゅーり、しゅーり、ちあわちぇー!」 ふむ、消耗してはいるが、まだ当分は使えそうだ。 そして、その夜は多すぎて食べきれなかった肉まんの残りを、コンポストに放り込んでやった。 やはり一人暮らしにあのサイズは無茶な話だな。 「ゆわーい。きょうはごちそうだにぇ!」 「ゆーん。きっといっしょにれみりゃをやっつけたから、ごほうびなんだよ。」 「ゆっくち!ゆっくち!」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− そんな生活が、しばらく続いたが、 子れいむが成体にまで大きくなった頃、親れいむの方が死んだ。 あとで調べたが、町の野良の寿命は平均一年かどうかと、大分短いらしい。 我が家に来た時には中古のポンコツだったということか。 「お・・・おにーさん。おちびちゃんを、・・・これからもゆっくりさせてあげてね。」 「特になにも変らんよ。」 「おちびちゃん、・・・ゆっくりしていってね・・・・・・」 「おかーしゃん、おきゃあしゃぁぁぁあああん!!!すーりすーりしてね、ぺーろぺーろしてねぇぇえええ!!!」 リボンは子れいむの方が欲しがったのでくれてやり、死体のほうはぐちゃぐちゃにすり潰して肥料にした。 花壇の花も元気に育つことだろう。 「おかーさん。おはなさんになったんだね。」 「まあそうとも言えるな。」 「ゆっくりしていってね。おかーさん。」 まあ、そんなことはどうでも良かったのだが、少し問題が生じてきた。 コンポストの、生ごみ処理能力が落ちてしまったのだ。 「ゆぅぅ~。さびしいよぉ。」 「おちびちゃんがほしいよぉ。」 「すーりすーりしたいよぉ。」 どうも孤独な生活と発情期が重なって、ノイローゼ状態になったらしい。 頭数が減ったうえ、どうにも食欲が無い。庭の雑草もまた伸び始めてきた。 これは、新しいゆっくりを取ってくる必要がありそうだな。 その日、夕食の生ゴミをコンポストに放り込みながら、 れいむにつがいを探してやる、と言った時のれいむの喜びようは大変なものだった。 体が溶ける寸前まで水浴びをして、リボンのしわ一つ一つまで丹念にあんよでつぶして伸ばしていく。 コンポスト内の清掃も丹念に行い、 さらに子供が出来た後のために、花やイモ虫、果物の皮などのごちそうから保存食の干し草まで貯めこむ。 にんっしん中のベッドまで葉っぱと草を使って作り終えて、準備万端でその日を迎えた。 約束の日、私はれいむを連れて街を歩き、れいむ的に「すっごくゆっくりしてる」まりさを手に入れた。 この白黒饅頭、帽子にアイロンをかけた形跡もわずかにあり、恐らくバッジを引きちぎったのであろう傷痕も見られる。 飼われていたというなら、それなりの躾もされているのだろう。好都合だ。 「ゆふん!そんなにまりさをかいたかったら、かわせてやってもいいのぜ。」 「ゆっくり!まりさ、ずっとゆっくりしようね!」 「ゆん!なかなかゆっくりしたれいむだから、とくべつにすっきりしてやってもいいのぜ。」 本人も乗り気のようだから都合よい。つがいにしてやることにして、家に連れていった。 「ゆぅ~ん、まりさ。すーり、すーり。」 「ゆへぇぇ!いいからとっととまむまむをむけるのぜぇ!『ぼよぉぉおん!』」 「『ごろんっ』ゆぅ!?もっとゆっくりしてぇ!」 「しったこっちゃないのぜ!まりさのぺにぺにをおみまいしてやるのぜぇ!!」 ずぼぉっ!ずっぽずっぽずっぽずっぽ・・・ 「ゆぁーん、いだいぃぃぃい!らんぼうすぎるよぉ。もっと、ゆっぐりぃ!」 「ゆっふっ!ゆっゆっゆっゆっゆっゆっすっきりぃぃぃいいい!」 「ずっぎりぃぃ。」 とりあえずれいむの腹が膨れてきたので、予定どおりにいったようだ。 「ひどいよまりさ・・・」 「ゆふぅ。ひとしごとおわっておなかがすいたのぜ。にんげんさん、とっととごはんをもってくるんだぜ!」 「その辺のを適当に食え。」 「ゆゆ!?なにいってるのぜ。ゆっくりふーどさんなんて、どこにもないのぜ。」 「草があるだろ。」 「な・・・なにいってるのぜぇぇ!くささんはごはんじゃないのぜ! ふーどさんがないならけーきさんでもいいのぜ!はやくもってくるのぜ、くそじじぃ!」 「ゆぅ。なにいってるの?おにーさんにあやまってね。くささんはおいしいよ。むーしゃむーしゃ。」 「ゆぎぃぃぃいい!もういいのぜ!はやくおうちにいれるのぜ!べっどですーやすーやするのぜ!」 「そこに家ならあるだろ。」 「な・・・なにいってるのぜぇ!これはごみばこさんなのぜ!くさくてきたないのぜ!」 「ひ、ひどいよまりさ!おにーさんがれいむにくれた、ゆっくりできるおうちだよ! それに、れいむがいっしょうけんめいおそうじしたんだよ!ゆっくりあやまってね!」 「・・・いいよ別に。文句があるなら勝手に出ていけば。」 「ゆふん!まったく、ばかなじじぃとゆっくりしてないごみれいむのほうが、このおうちからでていくのぜ! ゆっくりしたまりささまが、とくべつにこのおうちをつかってやるのぜ!」 「ふーん・・・。れいむ、どうやら一緒に暮らすのは無理そうだが。」 「ゆぅぅぅぅ・・・ゆっくりできないまりさだよぉ。」 とりあえず、私が家から追い出されるのは嫌なので、ゆっくりしたまりささまとやらは、門から丁重に出て行ってもらった。 あれだけ態度がでかいと、野良をやっていくのも大変だろうに、大したものだ。 しかし、ゆっくりと言っても、コンポスト向きのとそうでないのがいるのかもしれない。 黒帽子がダメなのか、飼われていたのがダメなのか、まあ、どうでもいいことだ。 れいむの腹にいるちび共の中に黒帽子がいたら、それもはっきりするだろう。 つがいこそいなくなったものの、孤独を埋めるという当初の目的は達成されたようである。 それから数匹分の食欲を発揮し始めたれいむは、3週間後、無事れいむ種一匹とまりさ種一匹を出産した。 赤ゆっくりが腹から射出される勢いには驚いたが、庭は柔らかい芝生であったのが幸いしたのか、 せっかくれいむが作っていた草のクッションから1m以上離れて着地したものの、つぶれることはなかった。 「「ゆっくちしちぇっちぇにぇ!!!」」 「ゆっくりしていってね!ゆぅーん、ぺーろぺーろ、おちびちゃんたちかわいいよぉ。」 これで、コンポストの方は今後も安泰そうだ。 母れいむがチビ共にもバッジが欲しいとか言ってきたので、画鋲のカサの部分をセメダインでくっつけておく。金バッジだ。 これで満足して生ゴミを処理してくれるのだから、安上がりなものだ。 ちなみに、ゆっくりしたまりささまに出て行ってもらってから二日後、門の前にみすぼらしく、 帽子もかぶっていないまりさ種が一匹転がっていた。 「やっばりがっでぐだざぃぃ・・・おねがいじばずぅ。」 とか言っていたが、ゆっくりを飼う趣味などないので、無視しておいた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− それからしばらくは、コンポストとしても庭の芝生管理としても特に問題はなかった。 ピンポン玉サイズの子供たちでは、成体一匹分の処理能力を補えるかと、多少不安ではあったが、 どうやら、成長中のチビ共の方が食欲は旺盛らしく、生ゴミは毎日順調に処理され、肥料になっていった。 黒帽子の方も特に文句を言わず、生ゴミをムシャムシャ食らい、庭をぽよんぽよんと跳ねまわっている。 やはりあの態度は、育ちが問題だったようだ。 だが、赤ゆっくり達が産まれてから一月ほどたち、そろそろ冬の近づきを肌で感じ始めた頃、 またしてもコンポストの性能が低下してきた。 朝、コンポストの中をのぞいてみると、まだ昨日の生ゴミが残っている。 さらにその奥では、歯をガチガチと鳴らしながら、目の下にクマをつくったれいむ一家がいた。 「お、おおお、おにーさん、おうちがさむいよぉぉぉ・・。ねむれないよぉぉ・・。」 「しゃむくてゆっくちできにゃいぃぃぃ。」 「ごはんしゃんつめちゃいよ。むーちゃ、むーちゃ、しょれなりー。」 コンポストはれいむ達なりにきっちり入口を塞いでいるが、やはり所詮はポリバケツ。 まだ昼間は温かいが、壁一枚隔てた向こうの、夜の寒気を完全に防ぐことはできないようだ。 この時期でこれでは、冬の間はコンポストの機能が完全に停止しかねない。 家に入れるという選択肢はもちろんないが、 本格的にコンポストの改造を行う必要がありそうだ。 その日の昼、れいむ一家に『たからもの』とか言う小石や押し花や、ガムの付いたリボンらしきゴミをコンポストから出させると、 大規模な改装に取り掛かった。 まずは、ポリバケツを掘り出して、横倒しにすると天井になる、壁の一部を四角く切り抜く。 それに、ちょうつがいと留め金をつけて、外から開けるようにした。 ゆっくりは、冬には巣の入り口を密閉するらしいので、生ゴミの投入口をつけてやったわけだ。 次にバケツの入口、つまりゆっくりの出入り口だが、せいぜい直径30cm程度のゆっくりに対しては大きすぎる。 壊れたすのこを材料にして、ドーナツ状の板をつくり、バケツの口に取り付けてやった。 これでゆっくりの出入り口は、必要最低限の大きさになり、 木の枝などで塞ぐ手間も、寒気の吹き込む隙間もぐっと減るはずだ。 あとは、再び縁側の下にポリバケツを埋めなおし、これまではむき出しだった側面にまで土をこんもりと盛っておく。 外から見ると、生ゴミの投入口と、ゆっくりの出入り口だけ穴のあいた、砂場の砂山のような外観となる。 縁側の下なので、雨風で盛り上げた土が崩れる心配は無い。 地下は冬でも暖かいというので、これで断熱は十分だろう。 数十分の作業中、庭で遊ばせていたれいむ一家を呼び寄せた時の反応は、 以前コンポストを、はじめてつくった時以上のものであった。 「ゆ、ゆ、ゆ、ゆわぁぁぁぁああい!すっごくゆっくりしたおうちだよぉぉおおお!」 「ゆっくち!ゆっくちー!れいみゅたち、こんなゆっくちしたおうちにしゅんでいいにょ!?」 「ゆわーい!なかもあっちゃかいよー!ゆっくちー!」 「ふーい、疲れた。あとはこいつでも中に敷いとけ。」 「ゆぅぅぅぅうう!しゅごーい!ゆっくちちたおふとんしゃんだー!」 「おにぃさん、ありがと、う、ゆぇぇぇええん!」 「おきゃーしゃん、ないちぇるにょ?どっかいちゃいにょ?ゆっくちしちぇにぇ。」 「おちびちゃぁぁあん!れいむはうれしくってないてるんだよぉ。ゆっくりー、ゆっくりー!」 近所の農家から頂いてきた干し藁をひと束くれてやっただけだが。 とりあえず、この反応からして、今後はまたコンポストとして元気にやってくれそうだ。 こちらはやることやったので、あとのメンテはこいつ等がかってにやってくれればいい。 かつて母れいむと一緒に野良生活を送っていた頃、れいむには夢があった。 温かくて、雨の心配も、風の恐怖も感じないですむおうち。 毎日お腹いっぱい食べられるだけのごはん。 しかも、そのごはんを手に入れるために、命の危険など感じずにすむゆっくりプレイス。 外敵の心配もないそのゆっくりプレイスで、 ゆっくりしたおちびちゃん達とすーりすーりしたり、のーびのーびしたり、 おうたをうたったり、水浴びですっきりーしながら、毎日ひたすらゆっくりする。 夜になったら、ゆっくりしたおうちに帰り、ふかふかのおふとんの中で、 家族で肌を寄せ合ってすーやすーやする。 たまにはあまあまが食べられたら言うことはない。 これが、れいむのかつて夢見たすべてであった。 そして、今、この場所には、れいむが望んだもの全てがあった。 全てのゆっくりが追い求め、そして見つけることの出来なかった場所、ゆっくりプレイス。 だが、れいむにとってのそれは、人間さんがコンポスト、と呼ぶこの場所に、確かに存在していたのだった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「ゆっくりー!」 「すーり、すーり、しあわせー。」 「すーり、すーり、・・・ゆっ、ゆっ、ゆっ」 「ゆふぅん、だめだよまりさぁ。ゆふぅ、ゆふぅーん!」 れいむ親子が初めて我が家のコンポストとなって2年。 結局外部から新たなゆっくりを連れてくる必要はなくなった。 こいつらは、家族以外のゆっくりがいないとなると、姉妹同士でつがいを作り続け、今はすでに4世代目である。 今はこれまた姉妹である、れいむとまりさのつがいがコンポストとして活躍している。 それと、最近は花壇の世話もめんどくさくなったので、街でゲッソリしていたゆうか種も一匹拾って庭に住まわせている。 最初はコンポストの連中が花を勝手に食う、食わないでもめた時期もあったが、 群れでもない以上大した量を食われることもなく、しかも花の肥料がコンポスト産だということもあり、 それなりの折り合いをつけることで落ち着いている。 「「すっきりー!」」 などと思っているところで、また増えるつもりのようだ。 れいむの頭ににょきにょきと生えたツタには赤れいむが3に赤まりさが2。 まあ、構わない。どうせ代替わりが激しいゆっくりである。 うっかり病死などしないうちに子供を作ってもらわなければ余計な手間だ。 それに増えすぎるようなら何個か潰して肥料にするだけ。 庭もすっかり華やかになって、もう幽霊屋敷の頃の面影は残っていない。 「おはよーございます。」 「ああ、農場の。おはよう。」 最近ついにこの辺も、のうかりん農場化が進み始めた。 生垣の向こうから挨拶してきたのうかりんも、そこの従業員である。 「とってもゆっくりした庭ですね。きれい。」 「まあ、ゆうかが一匹でやってるんだがね。」 「うふふ。それは失礼しました。でも、それ以上に・・・あなたの飼われているゆっくり達。」 「?」 「とってもゆっくりしてますね。今までたくさん飼いゆっくりを見ましたけど、一番ゆっくりしてますよ。」 「ふーん。そんなもんかね。」 同じゆっくりである、あののうかりんが言っているなら正しいのだろう。 よくわからんが、この2年間で一つだけ確信したことがある。 こいつらには、コンポストという仕事が向いている、ということだ。 リクのあったゴミ処理場ネタは今度また書きます。 それにしても自分のSS製作ペースがそれほど落ちたわけではないのに、 いつの間にか餡小話のそうとう下に追いやられてたり。 SS増加ペース早っ。 とりあえず、シリーズものについてはそろそろなんか書きます。 町れいむ、レイパー、計画中のペットショップシリーズ リクの消化もまだおわってないなぁ。 挿絵 by街中あき 挿絵 by??? 餡小話掲載作品 ふたば系ゆっくりいじめ 132 俺の嫁ゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 148 ここはみんなのおうち宣言 ふたば系ゆっくりいじめ 157 ぱちゅりおばさんの事件簿 ふたば系ゆっくりいじめ 249 Yの閃光 ふたば系ゆっくりいじめ 305 ゆっくりちるのの生態 ふたば系ゆっくりいじめ 333 銘菓湯栗饅頭 プラス本作品 『町れいむ一家の四季』シリーズ(ストーリー展開順・おまけについては何とも言えないけど) 春-1-1. ふたば系ゆっくりいじめ 161 春の恵みさんでゆっくりするよ 春-2-1. ふたば系ゆっくりいじめ 154 竜巻さんでゆっくりしようね 春-2-2. ふたば系ゆっくりいじめ 165 お姉さんのまりさ飼育日記(おまけ) 春-2-3. ふたば系ゆっくりいじめ 178 お姉さんとまりさのはじめてのおつかい(おまけのおまけ) 春-2-4. ふたば系ゆっくりいじめ 167 ちぇんの素晴らしきゆん生(おまけ) 春-2-5. ふたば系ゆっくりいじめ 206 町の赤ゆの生きる道 夏-1-1. ふたば系ゆっくりいじめ 137 真夏はゆっくりできるね 夏-1-2. ふたば系ゆっくりいじめ 139 ゆっくりのみるゆめ(おまけ) 夏-1-3. ふたば系ゆっくりいじめ 174 ぱちぇと学ぼう!ゆっくりライフ(おまけのおまけ) 夏-1-4. ふたば系ゆっくりいじめ 235 てんこのインモラルスタディ(おまけのおまけのおまけ) 夏-1-5. ふたば系ゆっくりいじめ 142 ゆうかりんのご奉仕授業(おまけ) 夏-2-1. ふたば系ゆっくりいじめ 146 雨さんはゆっくりしてるね 夏-2-2. ふたば系ゆっくりいじめ 205 末っ子れいむの帰還 秋-1. ふたば系ゆっくりいじめ 186 台風さんでゆっくりしたいよ 秋-2. ふたば系ゆっくりいじめ 271 都会の雨さんもゆっくりしてるね 翌年 ふたば系ゆっくりいじめ 224 レイパーズブレイド前篇(おまけ)
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/3576.html
現代設定 「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」 朝、寝ている俺の横で尻に充電ケーブルを指されたれいむが、 目覚ましがわりのアラームを鳴らす。 俺は朝なんて来なければいいのにと思いながら体を起こしれいむへと手を伸ばす。 伸ばした手が部屋の冷え切った空気にふれ急速に体温を奪われていく。 「ユックリシテイッテネ!!!ユッ」 れいむの横についているボタンを押しアラームを止める。 早めに鳴らす様に設定しているので出社の時間まで、まだ寝ていてもいい時間だ。 一様背面ディスプレイに表示される時間を確認し、布団の中に戻って後5分後5分と眠る事にする。 5分後…… 「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」 再びアラームがなり始める。 スヌーズ機能を5分に設定しているので、横ボタンだけだとアラームは再び鳴る。 この機能によって誰の手を借りる事も無く後5分が出来る。 そして時間的にはまだ余裕があるので再びれいむに手を伸ばし後5分を始める。 20分後…… 「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」 あれから何度か後5分後5分を続け20分が経過した頃、 さすがにそろそろ起きないといけない時間だ。丁度30分、これが最後の後5分となるだろう。 俺は悲愴な決意と共に最後の後5分へと挑んだ。 5分後…… 「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」 遂にこの時が来てしまった。 畜生、こんな事があるか、俺はただ寝ていたいだけだというのに、 まったくなんで朝なんて来るのか……。 「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」 悲しみに暮れている俺を、れいむは容赦なく攻め立てる。 この瞬間れいむに対して殺意すら浮かぶ。 「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」 とは言え、起きないという選択肢はなく、 だるい体を無理やり起こし身支度を整えなくてはいけない。 「ユックリシ」 とりあえず横ボタンでアラームを留めるが、 横ボタンではスヌーズ機能を止められないので れいむを開いて中央のボタンを押しアラームを止める必要がある。 「いーち……にーい……」 れいむを開くと中からは小声で数を数えているれいむの声が聞こえてくる。 次のアラームまでこうやって数えているのだろう。 俺はポチポチとれいむを操作しアラームを止める。 ようやく朝のお勤めが終わりれいむもほっと一息ついていた。 準備を整えた俺はれいむをポケットにいれ会社へと向かった。 れいむは俺の携帯電話だ。 俺がれいむと呼んでいるだけで携帯自体は普通の携帯電話で、 れいむはその中にいる待ち受けキャラクター的なものだ。 携帯の画面をウロウロしながら、メールや着信をまってそれを俺に知らせてくれる。 朝の様にアラームをセットしておけばそれも声で知らせてくれる。 他にも色々機能はあるが基本的には電池の無駄遣いになる程度の機能でしかない。 そんなものをなぜそのままにしておくかと言うと、れいむを設定してから設定を変える事が出来なくなってしまったからだ。 設定を変えようとするとれいむが俺に暗号の入力を求めて来て、その暗号とやらが判らず設定が変えられないといった具合だ。 「あんごうをいれてね!」 携帯の暗証番号や電話番号、あとは適当に関係ありそうな言葉をいれてもダメ。 「あんごうがちがうよ!!ゆっくりしていってね!!!」 まあ、このままでも特に問題なく、めんどくさいという理由でそのままになっている。 昼休み 携帯でプライベートなメールを確認すると、 件名が無く差出人も見覚えのないメールが届いていた。 気になって開いてみると、本文が表示されるところには文字化けしたような 意味不明の文字列が表示されていた。 なんなのか判らなかったが、とりあえずメールを削除する事にした。 メールを削除すると、何処からともなくれいむが現れ、削除したメールを食べてくれる。 「む~しゃ♪む~しゃ♪しあsdfghjk」 メールを食べると、れいむは奇妙な声を上げそのまま動かなくなった。 顔は笑顔のまま硬直し、その他の操作も一切効かない。 電源ボタン長押しで電源を切って再起動すると特に異常は無かったので、 まあ、この端末にしてから結構たっているからなんか壊れてるんだろうと気にしないことにした。 携帯を再起動して残りのメールを読んでいると 画面端かられいむがゆっくりと姿を現した。 「ゆっくりしていってね!!!」 そういって画面の中をうろうろと、携帯を操作していない時の様に動いている。 何時もは、メールを読んでいる時に待ち受けキャラクターは表示されないのだが、 その時はなぜか表示され少し不思議に思いながらもメールを読んでいた。 すると 「とってもゆっくりしたもじさんだね!!!」 意味がわからなかった。 まあ、文字は動かないしゆっくりしているのかもしれない。 そんな事を考えているとれいむはおもむろに動き出し。 「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせ~♪」 目の前にいるれいむは口を動かしながら幸せそうな顔をしている。 一息つくと隣の文字まで移動してもう一度。 「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせ~♪」 2~3回その様子を見ていてようやく異変に気づいた。 文字が、れいむが通った所に表示されていたメールの本文が消えている。 まさかれいむが食べているのはメールの本文なのか? 俺は訳が判らなくなり、れいむを止めようと慌ててメールを閉じた。 メールを閉じ何時もの待ち受け画面に戻ったが、そこにれいむの姿はない。 れいむもそうだがメールも気になる。 ただ表示がおかしくなっただけならまだメールは無事かもしれない。 俺はもう一度メールを開いた。 メールは無事では無かった。 そこにはムシャムシャとメールの本文を食べ続けるれいむがいた。 「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせ~♪」 結局、大半の文字を食い尽くすまでどうする事も出来ず、 後に残された意味不明な文字列では内容を推測する事も出来なかった。 れいむは満腹にでもなったのかその場でゆーゆーと寝息を立てている。 その日はその後直ぐに電源を切った。 翌日 恐る恐る電源を入れる画面の中央に何時もと変わらない様子のれいむがいた。 「ゆっくりしていってね!!!」 昨日の事がありすこしイラッとしながらも もうメール食ったりするなよと心の中で言いながら携帯を閉じる。 「ゆっくりわかったよ!!」 なにか返事のようなものが聞こえた様な気がするが気のせい気のせい……。 その日の夜、食事を取りながら携帯を弄っていると、またもやれいむが不振な動きをしだした。 あっちへ行ったりこっちへ行ったり、顔の真ん中あたりをヒクヒクさせたり、口からはだらだらと涎を垂らしている。 「とってもいいにおいがするよ!!ゆっくりしていってね!!!」 臭い……臭いねぇ、そんな事わかるはずは無いのだが、一昨日から続く不可解な現象に一瞬信じてしまいそうになる。 「おにいさん!れいむおなかすいたよ!!」 そうだね、お腹空いたね、だからこうして食事を取っているのだけどね。 「おにいさんのほうからにおいがするよ!!ゆっくりそっちにいくよ!!!」 そーか、こいこい、これるもんならだけど。 そう言うとれいむはこちらを向き、少しずつ大きくなっていった。 今までやや右向きか左向きの顔しか見たことが無かったが、正面から見るとあまり可愛くない顔をしている。 それよりこっちに来るといったれいむはどんどんと大きくなっている。 これはひょっとしてこっちに向かって近づいてきているのだろうか……。 「ゆっくりいくよ!!ゆっくりしていってね!!!」 徐々に大きくなってくれいむの姿は、既に画面からはみ出るほどだ。 それでもまだ止まることなく大きくなり続けるれいむ。 遂に画面には顔半分程しか映ってない。 「ゆー、せまくてとおれないよ!!!」 こいつこんなにでかかったのか、しかも画面に写っている顔の一部がこちら側に盛り上がってはみ出している。 「ゆゆ!くすぐったいよ!!」 はみ出している部分を指でつつくと、携帯の液晶とは明らかに違ったぷにっとした柔らかい感触がする。 「ゆっくりひっぱってね!!!」 俺は言われるがまま、はみ出している部分をつまみ思いっきり引っ張った。 引っ張るとれいむはびみょ~んと伸び、徐々にではあるがこちら側に出てきた。 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛!!」 後ちょっとで顔半分が出るといった所で引っ掛かり、それ以上はなかなか出てこない。 引いてダメならもっと引く、つまんでいた部分を鷲掴みにして思いっきり引っ張る。 スポーンという音と共にれいむがこちら側に飛び出した。 「ゆっくりしていってね!!!」 まさか本当に出てくるとは、直径20cmはあるれいむが俺の部屋でゆっくりしていた。 「ごっはん♪ごっはん♪」 れいむはテーブルの上に上りそこにある俺の晩御飯のチャーハンに顔面から突っ込んだ。 「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせー!!」 「あっ!」 と言う間にチャーハンを平らげたれいむは満足そうにふんぞり返ってゲップをした。 部屋の中には甘ったるい臭いが広がる。 「ゆー!まんぞくしたよ!!」 そう言うとれいむは携帯の方に跳ねていき、携帯の画面に顔面を押し付けだした。 だが、出てきたときと同じ様に自力では中に入れず、俺に助けを求めてきた。 「おにいさん!ゆっくりおしてね!!」 押して欲しいなら押してやろう。 俺はれいむの後頭部に手をあて体重を掛けながら思い切り押した。 「ゆぎゅっ……ゆっくりおしてね!ゆっくりだよ!」 ゆっくりじっくりたっぷり押してやるよ。 ズボッとという音と共にれいむが携帯の中に入った。 「ゆっくりしていってね!!!」 台無しになってしまった晩御飯を片付けて、代わりにインスタント食品で晩御飯を作る。 食事を済ませて一息ついているとれいむが突然鳴った。 「プルルルルルル!プルルルルルル!デンワダヨ!!ユックリデテネ!!!」 携帯に表示されている電話番号はアドレス帳には登録されていない。 誰からの電話だろうと考えてみたが判らない。 そうこうしている間に10秒ぐらいはコールがあっただろうか。 段々とコールの音が小さくなっていく。 コールの合間にはれいむの息継ぎの音が聞こえる。 電話に出るとそれは良く知った友人からで、色々あって携帯の番号が変わったそうだ。 用件は番号が変わった事だけだったが、その後しばらくたわいも無い世間話をしていた。 「ゆふー……ゆふー……おにいさんゆっくりしすぎだよ……」 友人の声とは別にれいむの声も時折聞こえてくる。 話に加わりたそうにしているが、友人の方に聞こえていないようだ。 しばらく話をしていると、左頬をなにかにこすられている様な感じがした。 携帯を左耳に当てているので頬にも当たるのだが、携帯とは違うなにか柔らかいもので擦られている。 そういえばすこし前にもこんな感触のものがあったような気がする。 「す~り、す~り、すすすすすっきりー!!!」 ビクンビクンと痙攣が伝わり、擦られる様な感覚も痙攣もしなくなった。 友人と話を終え電話を切った。 突然便意を感じトイレに向かった俺は、手にれいむを忘れずに持っていった。 5分ほどで大き目の様を足し、携帯のカメラを起動し便器へと向ける。 「ピンピロリーン」 今日も体調はバッチリだ。取った写真は携帯に保存しておく。 俺のデータフォルダには既に毎日の健康状態が既に2年分ほど溜まっている。 「とってもゆっくりしてるよ!!!」 そういってれいむは涎を垂らすが、どういう意味なのかは判らない。 「プルルルルルル!プルルルルルル!デンワダヨ!!ユックリデテネ!!!」 再び掛かってきた電話に驚いた俺はついうっかり手を滑らせてしまう。 「プルルルルルル!プルッ!ガボッゴボガビュグビャイ!!!」 落とした携帯は浮いているティッシュペーパの上にのりゆっくりと水中へと沈んでいった。 急いでゴム手袋を装着しれいむを救助したがれいむは既に事切れていた。 おわり 作者:モテカワスリムの愛されレイーム(笑)大好きあき
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/4727.html
*警告* 現代物です。 ゆっくりは何も悪いことをしていませんが、ゆっくりできません。 設定と構成上、「ペットを飼う資格(略)」系は*絶対に*受け付けません。 ↓以下本文 「ゆっくりしていってね!」 視界が一瞬にして開けた。れいむは目の前の人間さんに、あんこの底から沸き上がった 言葉を投げかける。このおねえさんは、無条件にゆっくりできる相手だと本能が告げてい たから。 「れいむ、ゆっくりしていってね」 「いっしょにゆっくりしようね!」 おねえさんはにこにこしていて、とってもゆっくりできるにんげんさん。れいむは確信 していた。こんなゆっくりできるおねえさんと一緒にゆっくりできるれいむは、きっと世 界で一番ゆっくりしているゆっくりなのだと。 しかし、それは全て加工場のたゆまぬ努力によるものである。愛玩用ゆっくりは、目が 開く前に親ゆっくりの茎から切り離され、出荷まで親ゆっくりの顔も知らず、すーりすー りの感触も知らず、あまあまの味も知らずに、暗闇の中で育てられる。育成機の中は光も 音も届かない。すーりすーりができないように一匹ずつ器具で固定され、舌に癖がつかな いように後部からチューブであんこを継ぎ足され、ハンドボール大になるまで成長させら れたゆっくりは、真空パックされて仮死状態となり、晴れて出荷される。このれいむもま た、大量生産の愛玩用ゆっくりの一匹だった。 真空パックから取り出され、やがて目覚めたれいむは、幾度か目をしばたかせる。目の 前の鮮やかな色彩。生まれて初めて目にする姿。頬に触れた指の感触。何も知らず、何も 見えず、何も聞こえず、暗闇の中で成長させられたれいむには、それは生まれて初めての ゆっくり体験だった。 箱を開け、真空パウチからゆっくりを取り出せば、刷り込みにより、ゆっくりは購入者 に絶対の信頼を抱く。未刷り込みゆっくりを真空パックで流通できるようになったことで、 ゆっくりは食用、加工用だけでなく、愛玩用という新たな商品展開を得た。 「すーりすーり、ゆっくりー!」 「おー、柔らかい……!」 娘の指に頬ずりし、れいむは歓喜の涙を流す。暗闇の中で育ち、一切頬に触れないよう、 固定されて育ったれいむには、その感触は絶対的にゆっくりできるものだった。娘もまた、 れいむのぷにぷに感に頬を緩ませる。両手でつかまえ、ぶにぶにと揉みしだいているうち に、れいむは腹もないのにおなかを鳴らした。 「おねえさん! おなかぺこぺこだよ!」 「開けてから何も食べさせてなかったものね。いいわ、いまエサあげるわね」 娘は餌皿とれいむを床に置くと、ゆっくりフードの袋を確かめる。食べた物は中身にな るため、栄養価はどうでもいい。食事をした充足感でゆっくりすることにより、ゆっくり は存続し、成長することができる。そしてこのゆっくりフードは、ゆっくりが人間の食べ 物に興味を持たないよう、加工場の秘密テクノロジーで極限の苦痛を味わい、とてもとて も甘くなったゆっくりから作られている。 「え~っと、成体まで大きくしたいときは、一日一回、三粒かぁ」 餌皿に固形フードを三粒。れいむには未知の物体だが、それがとてもゆっくりできるあ まあまさんであることを、あんこに刻まれている本能が告げていた。 「ゆゆっ! あまあまさん! おねえさんありがとう!」 れいむは目を輝かせ、舌で器用にゆっくりフードを口に運ぶ。そして一噛み。その甘さ は、生まれて何一つ口にした記憶のないれいむには、あまりにも衝撃的だった。噛むたび にお口いっぱいに広がる素敵な甘さ。とてもゆっくりできるあまあまに、口の動きが止ま らない。それと同時に、あんこの底から湧き出た言葉が口をついて迸る。 「むーしゃ! むーしゃ! しあわせー!」 噛みながら叫ぶので餌の欠片をぼろぼろ飛ばし、滂沱の涙を流す。飛び散るかけらに、 娘は思わず眉をひそめる。 「れいむ、食べながらしゃべらないの。汚いでしょ」 「むーしゃむーしゃしないとゆっくりできないよ!」 娘の言葉に、れいむはふにっと傾いて不思議そうな顔になる。咀嚼しながら答えるので、 もちろん欠片はボロボロこぼれていく。 「おぉう」 ゆっくりはゆっくりする、という本能を実現するためだけに存在している、不思議な動 くおまんじゅうである。それを人間の都合にあわせて躾を行うのは容易なことではない。 単純にゆっくりの存在の根幹である、ゆっくりすることを我慢させることに成功したとし ても、我慢することはゆっくりできないこと。ゆっくりできなくては、ゆっくりはゆっく り分不足で干からびてしまう。また、恐怖や苦痛で従えたとしても、ゆっくりは表情がわ かりやすく、言葉を喋る特性から、愛玩用途には向かなくなってしまう。始終怯え、顔色 を伺うだけの動くおまんじゅうを敢えて愛玩用に買っていくニッチな需要など、商売とし て期待できようはずもない。 本能だけで動くゆっくりを人間社会の都合に合わせ、それでいてゆっくりらしさを失わ せないように。根気と知識の必要な、大変難しい仕事なのである。しかし人類の英知と技 術は対話と調教を介することなく、ゆっくりを人間社会に組み入れる事に成功した。れい むの後部に取り付けられている小箱こそが、小型化され、量産された技術と英知の結晶。 メモリーボックスである。 娘はれいむに同梱のプラスチックケースを開く。中にはプラスチックの薄板が無数に詰 め込まれていた。ラベルと蓋の裏のリストを見比べながら、娘は一枚手に取ると、夢中で ゆっくりフードを貪っているれいむを抱えあげ、膝に乗せる。 「むーしゃ! むーしゃ! しあわせー! おねえさん! とってもゆっくりしてるよ!」 「えーっと、取説だとここについてるはずなんだけど……あったあった」 ぼろぼろ餌を飛ばしながら歓喜の声を上げている、れいむの後ろどたまの髪の毛をめく ると、取扱説明書の通り、おりぼんの付け根のあたりに小さな箱が直付けされていた。娘 はカードの裏表を確かめ、恐る恐る小箱に挿し込んだ。 しゃこん。軽やかな音を立て、メモリーボックスにカードがスロットイン。アクセスラ ンプのLEDが赤く点灯すると同時に、れいむはあんこを貫く電撃に、目をカッとひん剥い て硬直した。 「ゆ゙っ?!」 ゆっくりできる言葉や、ゆっくりするための知識は、生まれる前からあんこに刻み込ま れている。しかし、ゆっくりの中身のあんこには、部位によって違いはない。当然である。 中身にムラのあるおまんじゅうなど不良品なのだから。だが人類の英知と不断の努力は、 ついにゆっくりの中身を解明した。当然、そこに至るまでは幾千幾万のゆっくりが生きな がらに解体され、技術革新の礎となったが、所詮はゆっくり。生命の尊厳もなければ権利 もないおまんじゅう。すりすりさせればいくらでも増えるので原材料費もほとんど掛から ず、解体済みゆっくりも無駄なく餌として再利用できるので、大したことではない。 娘の差し込んだカードは、食事修正アクションチップ『むしゃナイザー』。アクション チップは文字通り、ゆっくりの活動に関わる機能を持つ。後ろどたまからあんこに深々と 挿し込まれたメモリーボックス基部は読み込んだ情報に基づいて、れいむの不要なあんこ を瞬時に灼き切った。 何かをむーしゃむーしゃした時は、しあわせー、と叫べばゆっくりできる。それはゆっ くりの基本活動である。ゆっくりは食事の栄養価によって存在を維持するわけではない。 飲み込んだ物は中身に同化されるだけ。食事をした、という充足感によってゆっくりする ことで、ゆっくりは活動し続けることができる。 そしてその機能を失ったれいむは、何を口にしても二度とむーしゃむーしゃしあわせー、 をすることはない。しかし、そのままでは食事によるゆっくり分が得られず、干からびて 永遠にゆっくりしてしまう。そこで、あんこに直結されたメモリーボックスが食事のあん こ反応を拾い、ゆっくりに『むしゃナイザー』から書き込まれた代替活動を行わせる。そ して、ゆっくりは食べこぼしが気になる持ち主のために上書きされた本能で、ゆっくりす るのである。 「ゆ゙……ゆ゙ぴ……」 「ランプが緑になったら上書き完了です。カードを取り出して再起動して下さい、と」 かしゅん。ゆっくりの本能をほんの数秒で焼き尽くした薄板が、あまりにも軽い音をた てて排出された。メモリーボックスの再起動コマンドにより、れいむのあんこに軽い電気 ショックが加えられる。 「ゆっくりしていってね!」 「おはようれいむ。ゆっくりしていってね」 ぐりん、と白目から戻ったれいむは、反射的にゆっくりモーニングの声をあげる。娘は れいむの髪を指で梳いてメモリーボックスを覆い、布巾でお口の食べこぼしを拭う。ゆっ くりを飼うのはこれが初めての彼女は、加工場謹製『ゆっくりカスタムセット-Extra-』 の威力をまだ信用していなかった。 「れいむ、あまあまさんもう一つ食べたい?」 「ゆっ! おねえさん、たべていいの? れいむもうひとつほしいよ!」 掌に乗せて差し出された餌を、れいむは器用に舌で口に運ぶ。 「ゆっくりたべるよ! むーぐ! むーぐ! ごっくん! しあわせー!」 ゆっくりフードの甘さに歓喜の涙を流し、れいむは口をつぐんで行儀良く咀嚼する。そ して、喉もないのに飲み込んでから、改めてしあわせー、を叫ぶ。これならば、ひとかけ らもこぼれることはない。使い物にならなくなったあんこのかわりに、メモリーボックス に書き込また本能が、れいむを動かしていた。思う様あまあまを頬張ったことで、れいむ は存分にゆっくりできた。むーしゃむーしゃしあわせー、をしていた記憶は上書きされ、 既に残されていない。 「ぉー、これはすごい」 「ゆゆっ? おねえさん、なにかすごいの?」 不思議そうに見上げるれいむを撫で、娘はにっこり微笑みかけた。あんなにこぼしてい たのに、たった一度、カード一枚で直るなんて。 「なんでもないわ。れいむ、いっしょにゆっくりしましょうね」 「おねえさんといっしょにゆっくりするよ!」 乗せられた掌におでこを擦りつけ、れいむは嬉しそうに娘の膝の上で跳ねた。すてきな カードとメモリーボックスにより、一人と一匹の生活はとてもしあわせー、な物となった。 最早、ゆっくりが何をしようとも、持ち主は叱ったり、躾けたりする理由は無い。何か 不都合があれば、必要なチップで上書きすれば二度と問題行動は起こらない。ゆっくりの あらゆる行動は幾千幾万のゆっくりの屍の上に解析され、その犠牲は修正チップとして昇 華されているのである。 「ゆぴー、ゆぴー」 「ぅああぁ、洗濯物ぐっちゃぐちゃ……」 翌日、帰宅した娘の見たものは、ひっくり返って中身をフローリングにぶちまけた籠と、 そこに埋もれて後生楽な寝顔を見せるれいむだった。 「れいむ、起きなさい」 「ゆっくりおきたよ! おねえさんゆっくりおはよう!」 目を輝かせ、れいむは娘に飛びつく。ぼふっと抱きかかえ、娘はれいむの頬を挟んで持 ちあげた。 「これどうしたのかしら」 「れいむががんばってつくったゆっくりぷれいすだよ!」 「あなたの寝床は昨日つくってあげたでしょ」 「ふかふかさんはとってもゆっくりできるよ! ゆっくりあつめたよ!」 ゆっくりの形に窪んだ洗濯物の山を自慢げに示し、れいむはゆっへんと反り返ってみせ た。人間の部屋はゆっくりには広すぎるのか、ゆっくりは狭いところにすっぽりはまりこ んでゆっくりしようと、巣作りをする場合がある。 「もう、しょうがないわねえ」 「ゆっ? おねえさんゆ゙っ?!」 れいむを抱えたまま、娘はカードケースを開く。今回使用するのは、巣作りをやめさせ るアクションチップ。テーブルにれいむを置くと、メモリーボックスに『おうちサプレッ サー』を挿し込んだ。LEDのアクセスランプが点灯し、不必要な情報を蓄えたあんこが、 一瞬で灼き切られる。れいむのあんこからはおうちを求める本能が削り取られ、人間さん の作ってくれたおうちがあればゆっくりできるように上書きされた。 もうれいむは自分のゆっくりぷれいすがないとゆっくりできない本能に苛まれることも なければ、理想のゆっくりぷれいすを求めて巣作りをすることもない。人間に所有される 愛玩ゆっくりには、人間の与えるゆっくりぷれいすこそが真にゆっくりできるぷれいすで あり、勝手に部屋を荒らしたり、物を崩したりして巣作りをすることは求められていない。 もちろん、持ち主がそれを望むのは自由である。故に、購入者を尊重するために、初期状 態の愛玩用ゆっくりに上書き処理は一切施されていない。 娘が排出されたカードをケースに戻し、メモリーボックスから再起動を行うと、あんこ に走る電流で、コミカルな白目を剥いていたれいむは目を覚ます。 「ゆっくりしていってね! おねえさん、ゆっくりしすぎだよ! れいむねちゃったよ!」 「あら、れいむはどこで寝ていたのかしら」 「おねえさんのふかふかさんだよ!」 「ダメじゃない、ちゃんと自分の寝床で寝ないとゆっくりできないわよ」 「ゆっくりりかいしたよ!」 『おうちサプレッサー』の効果は抜群で、洗濯物の山は既にれいむのゆっくりぷれいす ではなく、執着することもない。刷り込みにより、持ち主に絶対の信頼を置いているれい むは、二度と洗濯物の籠を倒して巣を作ろうとすることはなかった。 おねえさんのつくってくれた寝床はとても柔らかくてゆっくりでき、れいむは確信して いた。こんなにゆっくりできるゆっくりぷれいすをおねえさんにもらえるれいむは、きっ と世界で一番しあわせー! なゆっくりなのだと。 「ゆーん、ゆゆーん、ゆっくりーのひー、すっきりーのひー、まったりーのひー」 「れいむ、うるさーい」 「おねえさん! れいむのおうたでゆっくりしてね!」 「え、それ歌だったの?」 「ゆがーん!」 数日後、取扱説明書に目を通している娘の足元で、れいむがゆんゆんとわめきちらして いる。頁に付箋を貼りながら娘が軽く蹴ってやると、れいむはころころと転がっていく。 「ゆっくりころがるよ!」 ゆっくりは、一日一粒のゆっくりフードを与えれば、いつまでも大きくさせずに飼うこ とができる。成体サイズに成長させるために三粒ずつ与えられているれいむは、数日でハ ンドボール大から一回り大きくなっていた。歓声を上げてフローリングの床を本棚まで転 がると、れいむはぽいんぽいんと跳ねて娘の足元まで戻ってきて、足に頬を擦りつける。 「おねえさん! ゆっくりころがしてね!」 「待ってねー、先にやることあるのよっと」 娘は戻ってきたれいむを取り上げると、ふとももで挟んで固定して、後ろどたまのメモ リーボックスにカードを挿す。三度目ともなれば、操作も慣れたもの。足の間で白目に なって、れいむはびくっと硬直する。挿入された『おうたーミュート』はゆっくりからお 歌を永遠に奪う。アクセスランプが緑に変わり、れいむのあんこからお歌に関する全てが 消えた。今や、お歌はゆっくりが口にするような物ではなく、ゆっくりのれいむがお歌を 歌うなどということは、実にゆっくりできないことだった。お歌を失ったれいむは、他の ゆっくりのお歌を聞いたとしても、ゆっくりすることはない。 再起動したれいむはお歌で娘の機嫌を損ねることなく、与えられたおもちゃで遊び、遊 び疲れて娘に寝床に運んでもらい、ゆっくりと眠りについた。メモリーボックスと各種 チップによってカスタマイズされたあんこは、決して機能を回復することはない。れいむ はゆっくりできるタオルと段ボールの寝床でゆっくり夢を見る。その夢の中でさえも、上 書きされたかつての本能に触れることはないのだ。 おねえさんの作ってくれた寝床はれいむの自慢のゆっくりぷれいす。これよりゆっくり できるぷれいすは、きっとどこにも無いだろう。 おねえさんのくれたおもちゃがあるから、おねえさんが遊んでくれないときでも、れい むだけでゆっくりできる。 「うーん、もっといろいろする方が面白いかなあ」 「れいむはとってもゆっくりしてるよ!」 座布団の上でゆっくりしていたれいむを、頬杖を突いて眺めていた娘は取扱説明書をめ くった。カスタムチップはアクションチップだけではない。ゆっくりの性質を変更できる、 エモーションチップである。 「れいむおいでー」 「ゆっくりおよばれだよ!」 娘はぽむぽむと跳ねてきたれいむを両手でつかまえ、膝に乗せた。後ろを向かせ、メモ リーボックスにエモーションチップ『アクティブハート』のカードを挿入する。れいむの あんこの一部が破壊され、活発さが上書きされる。 「ゆっくりしていってね!」 「ええ、ゆっくりしていってね」 再起動したれいむは膝からテーブルに飛び移り、何度も跳ねて娘に挨拶する。お茶請け の一口ゆっくりまんじゅうを狙ったりすることはない。人間の食べ物はゆっくりできない。 アクションチップ『猫度』でカスタマイズされたれいむは、雑食性で食い意地の張った ゆっくりでありながら、盗み食いなどしたりはしない。 「おねえさん! れいむとあそんでね!」 ぽむっ、ぽむっと頬杖に軽く体当たりし、袖を甘噛みするれいむの髪の毛をくしゃっと してやり、娘は小さく鼻を鳴らす。 まりさなら、お帽子取ってこいよね。れいむと遊ぶのって何があるのかしら。柔らかい れいむをぶにっとテーブルに押さえつけては離して、弾力を楽しんでいた娘の指が、れい むのおりぼんに触れた。そして、娘はぱちっと指を鳴らした。 「ゆ゙っ! ゆ゙っ! つぶれちゃうよ!」 「少し運動させたほうが大きく育ちそうよね」 れいむが元の形に戻ろうと、むにょむにょ百面相している間に、物差しに糸を結び、取 り外したおりぼんを結わえ、即興のおもちゃが完成した。 「れいむのすてきなおりぼんさんかえしてね!」 右へ。 「かざりさんがないとゆっくりできないよ!」 左へ。 「おりぼんさんゆっくりしてね!」 取り戻そうと大きく跳ねたれいむは、物差しをひょいと持ち上げられ、顔面から天板と 物理的に仲良くなった。れいむは少し平たくなって、お顔は赤くひりひりする。娘が手を 小さく動かすと、それに従っておりぼんはれいむの目の前でひらひら踊る。 「まってね! おりぼんさんにげないでね!」 むにっと突っ伏した状態から跳ね起きると、れいむは下膨れの顔を半泣きに歪めて必死 にテーブルの上を跳ね回る。そのブサ可愛い必死面に、娘は満面の笑みを浮かべて物差し の振り幅を次第に大きくしていく。 「ゆっくりしてよー! おねえさん! ゆっくりできないよー!」 「あはは、れいむがんばって!」 虚空を舞い踊る飾りに追いつこうと、れいむは愉快な音を立ててテーブルを跳ねまわる。 娘がひょい、ひょいと追いつく寸前に物差しを振ると、れいむはおまんじゅうボディを いっぱいにたわませ、再び跳ねていく。絶対に捕まらない、果てしない鬼ごっこ。万一に も追いつきそうになったら、その場で真上に振れば、絶対に届くことはない。 「ゆっくりしていってよー! ゆっくりしていってよー!」 娘が満足するまで走り回らされ、疲れ果てたれいむは呼吸の必要もないのに、上下に大 きくたわんで、りぼんにお願いするばかり。ウザ可愛い泣き顔にこみ上がるにやにやを必 死に押し隠し、娘はれいむの眼前におりぼんを垂らし、小刻みに動かして誘ってやる。れ いむがじりじりと這いずって距離を詰めると、同じだけおりぼんも離れていく。 「あいきゃんふらい!」 そして、テーブルの端でひょい、と持ち上がったおりぼん目掛け、れいむは風になった。 「おそらをとんでゆ゙べし!」 おりぼんを追い回していたれいむの泣き顔は、突然の浮遊感に一瞬で笑顔に変わる。そ して、ゆっくりできない勢いで近づいてくる地面に白目を剥いて歯を剥きだして固まって、 そのままフローリングと情熱的な抱擁を交わした。 「あちゃー、やりすぎたかしら。やっぱり活発すぎるのもダメね」 びくびく痙攣しているれいむに『クール!』のエモーションチップを挿し、その間に娘 はおりぼんを戻す。あとは、床との熱烈なキスでお口から溢れたあんこを詰め戻せば元通 り。ゴミや埃が混ざったところで、どうせあんこに変換されるので安心です。 「おねえさん! ゆうびんさんがきたよ!」 「れいむとってきてー」 「ゆっくりとってくるよ!」 バレーボールほどに育ったれいむは、定形外郵便でもくわえて運ぶことができる。扉の 郵便受けから落ちた封筒をくわえ、ずーりずーりと廊下をひっぱってきたれいむを一撫で。 ご褒美に麦チョコを一粒与え、娘は封筒の封を切った。それは、加工場が購入者全員へ 送った手紙だった。 「『ゆっくりカスタムセット-Extra-』をお買いあげいただき、まことにありがとうございます。 この度加工場は、ゆっくり用メモリーボックスをすっきりー小型化に成功しました。 つきましては、お使いの古いメモリーボックスを新型メモリーボックスと無償で交換いた します。あなたのゆっくりの思い出の全てを安全に保護できる、新型メモリーボックス を是非お試し下さい」 「おねえさん! かこうじょうはゆっくりできないよ!」 「いやいやれいむ。あなたは加工場から買われてきたのよ」 「ゆがーん!」 あんこに刻まれた恐怖の単語に、がたがた震えるれいむににっこり微笑みかけ、娘は同 封された分厚いメディア用封筒と、ユーザー登録票に必要事項を書き込んでいく。 「あ、今ならボディパーツ交換も無料ですって」 「ゆ゙ぽっ」 娘の指がれいむの頭に食い込み、テーブルに押さえつける。そして、れいむの後ろどた まからメモリーボックスが取り外された。各種チップを使用するたびに灼き切られるため、 カスタマイズを繰り返すとあんこは使い物にならなくなっていく。持ち主を忘れるような 愛玩物など、商品たりえない。しかし、人類の英知はその程度の困難には屈しない。最終 的にはゆっくりをを動かす程度の能力しか残されなくなるあんこの代わりに、メモリー ボックスがゆっくりのカスタマイズと、持ち主との思い出の全てを記憶するのである。 娘はあんこに深く埋まっていたメモリーボックスの基部を拭いて折り畳み、メディア用 の封筒に入れて封をした。そのうちに彼女のれいむは再び彼女の元へ帰ってくる。品質保 持の真空パックで、仮死状態から再起動すれば同じ顔をして「ゆっくりしていってね!」 と叫ぶことだろう。 「丁度いいわ、明日ゆっくりゴミの日だし」 メモリーボックスを取り外されたれいむは、ぴくりとも動かない。虚ろな目に小生意気 そうな光はなく、口はだらしなく半開き。幾度もアクションチップを、エモーションチッ プを使用され、その度に灼かれてきたれいむのあんこはもはやメモリーボックス無しでは 機能しなくなっていた。 れいむの全ては小箱の中に収められている。だが、メモリーボックスはゆっくりそのも のではない。では、この動かないおまんじゅうが、れいむなのだろうか。メモリーボック スをつけられた新たなゆっくりがれいむになるのだろうか。ただ確かなことは、ゆっくり は決してゆっくりすることはない消耗品である、ということだけ。 ゆっゆっ、と音を漏らすだけのおまんじゅうは、ポリ袋の中でゆっくりしていた。ゴミ 収集車の圧縮板に押し潰されるその時まで。 森に魚を求める、とか書きました。 このSSに感想をつける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1490.html
*警告* 現代物です。 ゆっくりは何も悪いことをしていませんが、ゆっくりできません。 設定と構成上、「ペットを飼う資格(略)」系は*絶対に*受け付けません。 ↓以下本文 「ゆっくりしていってね!」 視界が一瞬にして開けた。れいむは目の前の人間さんに、あんこの底から沸き上がった 言葉を投げかける。このおねえさんは、無条件にゆっくりできる相手だと本能が告げてい たから。 「れいむ、ゆっくりしていってね」 「いっしょにゆっくりしようね!」 おねえさんはにこにこしていて、とってもゆっくりできるにんげんさん。れいむは確信 していた。こんなゆっくりできるおねえさんと一緒にゆっくりできるれいむは、きっと世 界で一番ゆっくりしているゆっくりなのだと。 しかし、それは全て加工場のたゆまぬ努力によるものである。愛玩用ゆっくりは、目が 開く前に親ゆっくりの茎から切り離され、出荷まで親ゆっくりの顔も知らず、すーりすー りの感触も知らず、あまあまの味も知らずに、暗闇の中で育てられる。育成機の中は光も 音も届かない。すーりすーりができないように一匹ずつ器具で固定され、舌に癖がつかな いように後部からチューブであんこを継ぎ足され、ハンドボール大になるまで成長させら れたゆっくりは、真空パックされて仮死状態となり、晴れて出荷される。このれいむもま た、大量生産の愛玩用ゆっくりの一匹だった。 真空パックから取り出され、やがて目覚めたれいむは、幾度か目をしばたかせる。目の 前の鮮やかな色彩。生まれて初めて目にする姿。頬に触れた指の感触。何も知らず、何も 見えず、何も聞こえず、暗闇の中で成長させられたれいむには、それは生まれて初めての ゆっくり体験だった。 箱を開け、真空パウチからゆっくりを取り出せば、刷り込みにより、ゆっくりは購入者 に絶対の信頼を抱く。未刷り込みゆっくりを真空パックで流通できるようになったことで、 ゆっくりは食用、加工用だけでなく、愛玩用という新たな商品展開を得た。 「すーりすーり、ゆっくりー!」 「おー、柔らかい……!」 娘の指に頬ずりし、れいむは歓喜の涙を流す。暗闇の中で育ち、一切頬に触れないよう、 固定されて育ったれいむには、その感触は絶対的にゆっくりできるものだった。娘もまた、 れいむのぷにぷに感に頬を緩ませる。両手でつかまえ、ぶにぶにと揉みしだいているうち に、れいむは腹もないのにおなかを鳴らした。 「おねえさん! おなかぺこぺこだよ!」 「開けてから何も食べさせてなかったものね。いいわ、いまエサあげるわね」 娘は餌皿とれいむを床に置くと、ゆっくりフードの袋を確かめる。食べた物は中身にな るため、栄養価はどうでもいい。食事をした充足感でゆっくりすることにより、ゆっくり は存続し、成長することができる。そしてこのゆっくりフードは、ゆっくりが人間の食べ 物に興味を持たないよう、加工場の秘密テクノロジーで極限の苦痛を味わい、とてもとて も甘くなったゆっくりから作られている。 「え~っと、成体まで大きくしたいときは、一日一回、三粒かぁ」 餌皿に固形フードを三粒。れいむには未知の物体だが、それがとてもゆっくりできるあ まあまさんであることを、あんこに刻まれている本能が告げていた。 「ゆゆっ! あまあまさん! おねえさんありがとう!」 れいむは目を輝かせ、舌で器用にゆっくりフードを口に運ぶ。そして一噛み。その甘さ は、生まれて何一つ口にした記憶のないれいむには、あまりにも衝撃的だった。噛むたび にお口いっぱいに広がる素敵な甘さ。とてもゆっくりできるあまあまに、口の動きが止ま らない。それと同時に、あんこの底から湧き出た言葉が口をついて迸る。 「むーしゃ! むーしゃ! しあわせー!」 噛みながら叫ぶので餌の欠片をぼろぼろ飛ばし、滂沱の涙を流す。飛び散るかけらに、 娘は思わず眉をひそめる。 「れいむ、食べながらしゃべらないの。汚いでしょ」 「むーしゃむーしゃしないとゆっくりできないよ!」 娘の言葉に、れいむはふにっと傾いて不思議そうな顔になる。咀嚼しながら答えるので、 もちろん欠片はボロボロこぼれていく。 「おぉう」 ゆっくりはゆっくりする、という本能を実現するためだけに存在している、不思議な動 くおまんじゅうである。それを人間の都合にあわせて躾を行うのは容易なことではない。 単純にゆっくりの存在の根幹である、ゆっくりすることを我慢させることに成功したとし ても、我慢することはゆっくりできないこと。ゆっくりできなくては、ゆっくりはゆっく り分不足で干からびてしまう。また、恐怖や苦痛で従えたとしても、ゆっくりは表情がわ かりやすく、言葉を喋る特性から、愛玩用途には向かなくなってしまう。始終怯え、顔色 を伺うだけの動くおまんじゅうを敢えて愛玩用に買っていくニッチな需要など、商売とし て期待できようはずもない。 本能だけで動くゆっくりを人間社会の都合に合わせ、それでいてゆっくりらしさを失わ せないように。根気と知識の必要な、大変難しい仕事なのである。しかし人類の英知と技 術は対話と調教を介することなく、ゆっくりを人間社会に組み入れる事に成功した。れい むの後部に取り付けられている小箱こそが、小型化され、量産された技術と英知の結晶。 メモリーボックスである。 娘はれいむに同梱のプラスチックケースを開く。中にはプラスチックの薄板が無数に詰 め込まれていた。ラベルと蓋の裏のリストを見比べながら、娘は一枚手に取ると、夢中で ゆっくりフードを貪っているれいむを抱えあげ、膝に乗せる。 「むーしゃ! むーしゃ! しあわせー! おねえさん! とってもゆっくりしてるよ!」 「えーっと、取説だとここについてるはずなんだけど……あったあった」 ぼろぼろ餌を飛ばしながら歓喜の声を上げている、れいむの後ろどたまの髪の毛をめく ると、取扱説明書の通り、おりぼんの付け根のあたりに小さな箱が直付けされていた。娘 はカードの裏表を確かめ、恐る恐る小箱に挿し込んだ。 しゃこん。軽やかな音を立て、メモリーボックスにカードがスロットイン。アクセスラ ンプのLEDが赤く点灯すると同時に、れいむはあんこを貫く電撃に、目をカッとひん剥い て硬直した。 「ゆ゙っ?!」 ゆっくりできる言葉や、ゆっくりするための知識は、生まれる前からあんこに刻み込ま れている。しかし、ゆっくりの中身のあんこには、部位によって違いはない。当然である。 中身にムラのあるおまんじゅうなど不良品なのだから。だが人類の英知と不断の努力は、 ついにゆっくりの中身を解明した。当然、そこに至るまでは幾千幾万のゆっくりが生きな がらに解体され、技術革新の礎となったが、所詮はゆっくり。生命の尊厳もなければ権利 もないおまんじゅう。すりすりさせればいくらでも増えるので原材料費もほとんど掛から ず、解体済みゆっくりも無駄なく餌として再利用できるので、大したことではない。 娘の差し込んだカードは、食事修正アクションチップ『むしゃナイザー』。アクション チップは文字通り、ゆっくりの活動に関わる機能を持つ。後ろどたまからあんこに深々と 挿し込まれたメモリーボックス基部は読み込んだ情報に基づいて、れいむの不要なあんこ を瞬時に灼き切った。 何かをむーしゃむーしゃした時は、しあわせー、と叫べばゆっくりできる。それはゆっ くりの基本活動である。ゆっくりは食事の栄養価によって存在を維持するわけではない。 飲み込んだ物は中身に同化されるだけ。食事をした、という充足感によってゆっくりする ことで、ゆっくりは活動し続けることができる。 そしてその機能を失ったれいむは、何を口にしても二度とむーしゃむーしゃしあわせー、 をすることはない。しかし、そのままでは食事によるゆっくり分が得られず、干からびて 永遠にゆっくりしてしまう。そこで、あんこに直結されたメモリーボックスが食事のあん こ反応を拾い、ゆっくりに『むしゃナイザー』から書き込まれた代替活動を行わせる。そ して、ゆっくりは食べこぼしが気になる持ち主のために上書きされた本能で、ゆっくりす るのである。 「ゆ゙……ゆ゙ぴ……」 「ランプが緑になったら上書き完了です。カードを取り出して再起動して下さい、と」 かしゅん。ゆっくりの本能をほんの数秒で焼き尽くした薄板が、あまりにも軽い音をた てて排出された。メモリーボックスの再起動コマンドにより、れいむのあんこに軽い電気 ショックが加えられる。 「ゆっくりしていってね!」 「おはようれいむ。ゆっくりしていってね」 ぐりん、と白目から戻ったれいむは、反射的にゆっくりモーニングの声をあげる。娘は れいむの髪を指で梳いてメモリーボックスを覆い、布巾でお口の食べこぼしを拭う。ゆっ くりを飼うのはこれが初めての彼女は、加工場謹製『ゆっくりカスタムセット-Extra-』 の威力をまだ信用していなかった。 「れいむ、あまあまさんもう一つ食べたい?」 「ゆっ! おねえさん、たべていいの? れいむもうひとつほしいよ!」 掌に乗せて差し出された餌を、れいむは器用に舌で口に運ぶ。 「ゆっくりたべるよ! むーぐ! むーぐ! ごっくん! しあわせー!」 ゆっくりフードの甘さに歓喜の涙を流し、れいむは口をつぐんで行儀良く咀嚼する。そ して、喉もないのに飲み込んでから、改めてしあわせー、を叫ぶ。これならば、ひとかけ らもこぼれることはない。使い物にならなくなったあんこのかわりに、メモリーボックス に書き込また本能が、れいむを動かしていた。思う様あまあまを頬張ったことで、れいむ は存分にゆっくりできた。むーしゃむーしゃしあわせー、をしていた記憶は上書きされ、 既に残されていない。 「ぉー、これはすごい」 「ゆゆっ? おねえさん、なにかすごいの?」 不思議そうに見上げるれいむを撫で、娘はにっこり微笑みかけた。あんなにこぼしてい たのに、たった一度、カード一枚で直るなんて。 「なんでもないわ。れいむ、いっしょにゆっくりしましょうね」 「おねえさんといっしょにゆっくりするよ!」 乗せられた掌におでこを擦りつけ、れいむは嬉しそうに娘の膝の上で跳ねた。すてきな カードとメモリーボックスにより、一人と一匹の生活はとてもしあわせー、な物となった。 最早、ゆっくりが何をしようとも、持ち主は叱ったり、躾けたりする理由は無い。何か 不都合があれば、必要なチップで上書きすれば二度と問題行動は起こらない。ゆっくりの あらゆる行動は幾千幾万のゆっくりの屍の上に解析され、その犠牲は修正チップとして昇 華されているのである。 「ゆぴー、ゆぴー」 「ぅああぁ、洗濯物ぐっちゃぐちゃ……」 翌日、帰宅した娘の見たものは、ひっくり返って中身をフローリングにぶちまけた籠と、 そこに埋もれて後生楽な寝顔を見せるれいむだった。 「れいむ、起きなさい」 「ゆっくりおきたよ! おねえさんゆっくりおはよう!」 目を輝かせ、れいむは娘に飛びつく。ぼふっと抱きかかえ、娘はれいむの頬を挟んで持 ちあげた。 「これどうしたのかしら」 「れいむががんばってつくったゆっくりぷれいすだよ!」 「あなたの寝床は昨日つくってあげたでしょ」 「ふかふかさんはとってもゆっくりできるよ! ゆっくりあつめたよ!」 ゆっくりの形に窪んだ洗濯物の山を自慢げに示し、れいむはゆっへんと反り返ってみせ た。人間の部屋はゆっくりには広すぎるのか、ゆっくりは狭いところにすっぽりはまりこ んでゆっくりしようと、巣作りをする場合がある。 「もう、しょうがないわねえ」 「ゆっ? おねえさんゆ゙っ?!」 れいむを抱えたまま、娘はカードケースを開く。今回使用するのは、巣作りをやめさせ るアクションチップ。テーブルにれいむを置くと、メモリーボックスに『おうちサプレッ サー』を挿し込んだ。LEDのアクセスランプが点灯し、不必要な情報を蓄えたあんこが、 一瞬で灼き切られる。れいむのあんこからはおうちを求める本能が削り取られ、人間さん の作ってくれたおうちがあればゆっくりできるように上書きされた。 もうれいむは自分のゆっくりぷれいすがないとゆっくりできない本能に苛まれることも なければ、理想のゆっくりぷれいすを求めて巣作りをすることもない。人間に所有される 愛玩ゆっくりには、人間の与えるゆっくりぷれいすこそが真にゆっくりできるぷれいすで あり、勝手に部屋を荒らしたり、物を崩したりして巣作りをすることは求められていない。 もちろん、持ち主がそれを望むのは自由である。故に、購入者を尊重するために、初期状 態の愛玩用ゆっくりに上書き処理は一切施されていない。 娘が排出されたカードをケースに戻し、メモリーボックスから再起動を行うと、あんこ に走る電流で、コミカルな白目を剥いていたれいむは目を覚ます。 「ゆっくりしていってね! おねえさん、ゆっくりしすぎだよ! れいむねちゃったよ!」 「あら、れいむはどこで寝ていたのかしら」 「おねえさんのふかふかさんだよ!」 「ダメじゃない、ちゃんと自分の寝床で寝ないとゆっくりできないわよ」 「ゆっくりりかいしたよ!」 『おうちサプレッサー』の効果は抜群で、洗濯物の山は既にれいむのゆっくりぷれいす ではなく、執着することもない。刷り込みにより、持ち主に絶対の信頼を置いているれい むは、二度と洗濯物の籠を倒して巣を作ろうとすることはなかった。 おねえさんのつくってくれた寝床はとても柔らかくてゆっくりでき、れいむは確信して いた。こんなにゆっくりできるゆっくりぷれいすをおねえさんにもらえるれいむは、きっ と世界で一番しあわせー! なゆっくりなのだと。 「ゆーん、ゆゆーん、ゆっくりーのひー、すっきりーのひー、まったりーのひー」 「れいむ、うるさーい」 「おねえさん! れいむのおうたでゆっくりしてね!」 「え、それ歌だったの?」 「ゆがーん!」 数日後、取扱説明書に目を通している娘の足元で、れいむがゆんゆんとわめきちらして いる。頁に付箋を貼りながら娘が軽く蹴ってやると、れいむはころころと転がっていく。 「ゆっくりころがるよ!」 ゆっくりは、一日一粒のゆっくりフードを与えれば、いつまでも大きくさせずに飼うこ とができる。成体サイズに成長させるために三粒ずつ与えられているれいむは、数日でハ ンドボール大から一回り大きくなっていた。歓声を上げてフローリングの床を本棚まで転 がると、れいむはぽいんぽいんと跳ねて娘の足元まで戻ってきて、足に頬を擦りつける。 「おねえさん! ゆっくりころがしてね!」 「待ってねー、先にやることあるのよっと」 娘は戻ってきたれいむを取り上げると、ふとももで挟んで固定して、後ろどたまのメモ リーボックスにカードを挿す。三度目ともなれば、操作も慣れたもの。足の間で白目に なって、れいむはびくっと硬直する。挿入された『おうたーミュート』はゆっくりからお 歌を永遠に奪う。アクセスランプが緑に変わり、れいむのあんこからお歌に関する全てが 消えた。今や、お歌はゆっくりが口にするような物ではなく、ゆっくりのれいむがお歌を 歌うなどということは、実にゆっくりできないことだった。お歌を失ったれいむは、他の ゆっくりのお歌を聞いたとしても、ゆっくりすることはない。 再起動したれいむはお歌で娘の機嫌を損ねることなく、与えられたおもちゃで遊び、遊 び疲れて娘に寝床に運んでもらい、ゆっくりと眠りについた。メモリーボックスと各種 チップによってカスタマイズされたあんこは、決して機能を回復することはない。れいむ はゆっくりできるタオルと段ボールの寝床でゆっくり夢を見る。その夢の中でさえも、上 書きされたかつての本能に触れることはないのだ。 おねえさんの作ってくれた寝床はれいむの自慢のゆっくりぷれいす。これよりゆっくり できるぷれいすは、きっとどこにも無いだろう。 おねえさんのくれたおもちゃがあるから、おねえさんが遊んでくれないときでも、れい むだけでゆっくりできる。 「うーん、もっといろいろする方が面白いかなあ」 「れいむはとってもゆっくりしてるよ!」 座布団の上でゆっくりしていたれいむを、頬杖を突いて眺めていた娘は取扱説明書をめ くった。カスタムチップはアクションチップだけではない。ゆっくりの性質を変更できる、 エモーションチップである。 「れいむおいでー」 「ゆっくりおよばれだよ!」 娘はぽむぽむと跳ねてきたれいむを両手でつかまえ、膝に乗せた。後ろを向かせ、メモ リーボックスにエモーションチップ『アクティブハート』のカードを挿入する。れいむの あんこの一部が破壊され、活発さが上書きされる。 「ゆっくりしていってね!」 「ええ、ゆっくりしていってね」 再起動したれいむは膝からテーブルに飛び移り、何度も跳ねて娘に挨拶する。お茶請け の一口ゆっくりまんじゅうを狙ったりすることはない。人間の食べ物はゆっくりできない。 アクションチップ『猫度』でカスタマイズされたれいむは、雑食性で食い意地の張った ゆっくりでありながら、盗み食いなどしたりはしない。 「おねえさん! れいむとあそんでね!」 ぽむっ、ぽむっと頬杖に軽く体当たりし、袖を甘噛みするれいむの髪の毛をくしゃっと してやり、娘は小さく鼻を鳴らす。 まりさなら、お帽子取ってこいよね。れいむと遊ぶのって何があるのかしら。柔らかい れいむをぶにっとテーブルに押さえつけては離して、弾力を楽しんでいた娘の指が、れい むのおりぼんに触れた。そして、娘はぱちっと指を鳴らした。 「ゆ゙っ! ゆ゙っ! つぶれちゃうよ!」 「少し運動させたほうが大きく育ちそうよね」 れいむが元の形に戻ろうと、むにょむにょ百面相している間に、物差しに糸を結び、取 り外したおりぼんを結わえ、即興のおもちゃが完成した。 「れいむのすてきなおりぼんさんかえしてね!」 右へ。 「かざりさんがないとゆっくりできないよ!」 左へ。 「おりぼんさんゆっくりしてね!」 取り戻そうと大きく跳ねたれいむは、物差しをひょいと持ち上げられ、顔面から天板と 物理的に仲良くなった。れいむは少し平たくなって、お顔は赤くひりひりする。娘が手を 小さく動かすと、それに従っておりぼんはれいむの目の前でひらひら踊る。 「まってね! おりぼんさんにげないでね!」 むにっと突っ伏した状態から跳ね起きると、れいむは下膨れの顔を半泣きに歪めて必死 にテーブルの上を跳ね回る。そのブサ可愛い必死面に、娘は満面の笑みを浮かべて物差し の振り幅を次第に大きくしていく。 「ゆっくりしてよー! おねえさん! ゆっくりできないよー!」 「あはは、れいむがんばって!」 虚空を舞い踊る飾りに追いつこうと、れいむは愉快な音を立ててテーブルを跳ねまわる。 娘がひょい、ひょいと追いつく寸前に物差しを振ると、れいむはおまんじゅうボディを いっぱいにたわませ、再び跳ねていく。絶対に捕まらない、果てしない鬼ごっこ。万一に も追いつきそうになったら、その場で真上に振れば、絶対に届くことはない。 「ゆっくりしていってよー! ゆっくりしていってよー!」 娘が満足するまで走り回らされ、疲れ果てたれいむは呼吸の必要もないのに、上下に大 きくたわんで、りぼんにお願いするばかり。ウザ可愛い泣き顔にこみ上がるにやにやを必 死に押し隠し、娘はれいむの眼前におりぼんを垂らし、小刻みに動かして誘ってやる。れ いむがじりじりと這いずって距離を詰めると、同じだけおりぼんも離れていく。 「あいきゃんふらい!」 そして、テーブルの端でひょい、と持ち上がったおりぼん目掛け、れいむは風になった。 「おそらをとんでゆ゙べし!」 おりぼんを追い回していたれいむの泣き顔は、突然の浮遊感に一瞬で笑顔に変わる。そ して、ゆっくりできない勢いで近づいてくる地面に白目を剥いて歯を剥きだして固まって、 そのままフローリングと情熱的な抱擁を交わした。 「あちゃー、やりすぎたかしら。やっぱり活発すぎるのもダメね」 びくびく痙攣しているれいむに『クール!』のエモーションチップを挿し、その間に娘 はおりぼんを戻す。あとは、床との熱烈なキスでお口から溢れたあんこを詰め戻せば元通 り。ゴミや埃が混ざったところで、どうせあんこに変換されるので安心です。 「おねえさん! ゆうびんさんがきたよ!」 「れいむとってきてー」 「ゆっくりとってくるよ!」 バレーボールほどに育ったれいむは、定形外郵便でもくわえて運ぶことができる。扉の 郵便受けから落ちた封筒をくわえ、ずーりずーりと廊下をひっぱってきたれいむを一撫で。 ご褒美に麦チョコを一粒与え、娘は封筒の封を切った。それは、加工場が購入者全員へ 送った手紙だった。 「『ゆっくりカスタムセット-Extra-』をお買いあげいただき、まことにありがとうございます。 この度加工場は、ゆっくり用メモリーボックスをすっきりー小型化に成功しました。 つきましては、お使いの古いメモリーボックスを新型メモリーボックスと無償で交換いた します。あなたのゆっくりの思い出の全てを安全に保護できる、新型メモリーボックス を是非お試し下さい」 「おねえさん! かこうじょうはゆっくりできないよ!」 「いやいやれいむ。あなたは加工場から買われてきたのよ」 「ゆがーん!」 あんこに刻まれた恐怖の単語に、がたがた震えるれいむににっこり微笑みかけ、娘は同 封された分厚いメディア用封筒と、ユーザー登録票に必要事項を書き込んでいく。 「あ、今ならボディパーツ交換も無料ですって」 「ゆ゙ぽっ」 娘の指がれいむの頭に食い込み、テーブルに押さえつける。そして、れいむの後ろどた まからメモリーボックスが取り外された。各種チップを使用するたびに灼き切られるため、 カスタマイズを繰り返すとあんこは使い物にならなくなっていく。持ち主を忘れるような 愛玩物など、商品たりえない。しかし、人類の英知はその程度の困難には屈しない。最終 的にはゆっくりをを動かす程度の能力しか残されなくなるあんこの代わりに、メモリー ボックスがゆっくりのカスタマイズと、持ち主との思い出の全てを記憶するのである。 娘はあんこに深く埋まっていたメモリーボックスの基部を拭いて折り畳み、メディア用 の封筒に入れて封をした。そのうちに彼女のれいむは再び彼女の元へ帰ってくる。品質保 持の真空パックで、仮死状態から再起動すれば同じ顔をして「ゆっくりしていってね!」 と叫ぶことだろう。 「丁度いいわ、明日ゆっくりゴミの日だし」 メモリーボックスを取り外されたれいむは、ぴくりとも動かない。虚ろな目に小生意気 そうな光はなく、口はだらしなく半開き。幾度もアクションチップを、エモーションチッ プを使用され、その度に灼かれてきたれいむのあんこはもはやメモリーボックス無しでは 機能しなくなっていた。 れいむの全ては小箱の中に収められている。だが、メモリーボックスはゆっくりそのも のではない。では、この動かないおまんじゅうが、れいむなのだろうか。メモリーボック スをつけられた新たなゆっくりがれいむになるのだろうか。ただ確かなことは、ゆっくり は決してゆっくりすることはない消耗品である、ということだけ。 ゆっゆっ、と音を漏らすだけのおまんじゅうは、ポリ袋の中でゆっくりしていた。ゴミ 収集車の圧縮板に押し潰されるその時まで。 森に魚を求める、とか書きました。 このSSに感想をつける
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/1702.html
・れいむが死にません。 ・エロくありません。 ・最近れいむいじめがひどかったんで、れいむ愛でモード突入中。 ・仕事の都合もあって製作ペースが戻らないので、まだまだリハビリが必要な感じです。 『飼いゆっくりれいむ』 D.O 我が家は、築100年を軽く超える古風な木造家屋である。 爺さんの若かった頃は農業をしていたとのことなので、蔵もあれば庭もあり、 さらにその周囲は生垣をはさんで小さな林まで広がっている。 外から見れば、歴史の重み、どころか幽霊屋敷の雰囲気漂わせていることだろう。 現在の主である私が手入れを怠っているので、庭はコケと背の高い雑草が生い茂り、生垣も所々穴が開いているからなのだが。 私が子供の頃は、周囲にまだ多くの農家も残っていたが、 十年ほど前に、ゆっくりの大規模な襲撃が起こり、すっかり疲弊してしまったようである。 もう少し山に近い田舎に立ち上がった、のうかりんを使った実験農場計画が始まった頃に多くの農地は売却され、 実験農場が順調な現状を考えると、このあたりも数年後にはのうかりん印の農場になりそうだ。 現在では町、というには空き家が多すぎる、少々寂しい地域となってしまっている。 そんなある日、仕事から帰ってみると、 庭にサッカーボールサイズと、テニスボールサイズの饅頭が一つづつ落ちていた。 日が暮れているので良く見えないが、赤白リボンの奴はたしかれ・・・れ?ゆっくりだ。 「ゆゆっ!おにーさん、ゆっくりしていってね!」 「ゆっくちしちぇっちぇにぇっ!」 「・・・・・・。」 家の電灯に照らされてみれば、薄汚れていて何ともゆっくりしていない奴等である。 少なくとも、見ているこちらとしてはゆっくりできない。 親子なのは間違いなさそうだが、親の方は全身余すところ無く、 マジックで唐草模様が描き込まれているあたり、町からやってきたのは間違いないだろう。 「にんげんさん、れいむはしんぐるまざーなんだよ!」 「へぇ・・・。で?」 「かわいそうなれいむたちを、ゆっくりかっていってね!」 「きゃわいくってごめんにぇっ!」 「・・・はぁ。」 なんだか、やり遂げた表情でこちらを見ている。 刈って、狩って、・・・いや、飼っていってね、か? どうやら、こんなにゆっくりしたおちびちゃんなんだから、人間さんも飼ってくれるに違いない、ということらしい。 とりあえずサンダルの裏を、その自信満々の顔面に押し当てて、塀の方に転がしてやることにした。 「ゆべしっ!」 「ゆぴぃぃいい!」 「・・・ペッ!」 噛んでいたガムが母れいむのリボンにジャストミートする。 「・・・・・・飯作ろ。」 別にゆっくりとやらに大した関心はない。 単に、コソコソ隠れているなら可愛げもあるが、ずうずうしさが気に入らなかっただけである。 これまでも野良猫やらなんやら、しょっちゅう仮の宿に使われていたので、 今更ゆっくりが庭に舞い込んだところで気にしない。 糞をばら撒かれないだけ、犬猫よりはありがたいくらいだ。 庭に住みたきゃ勝手に住めばいい。 こちらには当然世話する義務なんぞ無いのだから。 「ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛・・・・」 「ゆっくりー!」 痛みから回復したれいむ親子の方は、感動に打ち震えていた。 なにせ気がついたら、母れいむのリボンにペタリとついているのは、あの憧れの飼いゆっくりバッジ。 れいむも遠くで見ていたときは気づかなかったが、バッヂがまさか人間さんが口から吐き出されたものだったとは。 まあ、自分達もナワバリ(無意味極まるが)にしーしーでマーキングすることは多いのだから、そういうものなのだろう。 ・・・などと考えながら、リボンにへばりついたガムを、嬉し涙に潤んだ目で眺めていた。 そう、れいむはついに、ゆっくりの中でも最もゆっくりできると言われる、 あの飼いゆっくりにしてもらえたのであった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 翌朝。 便所から出て縁側を歩いていると、庭の隅に放置していた木箱から、れいむ親子が飛び出してきた。 「「ゆっくりしていってね!!!」」 「ん?まだいたか。」 朝からうるさい奴らだ。やはり猫の方がましだな。 「ゆーん。おにーさん、れいむたちにあさごはんちょーだいね!」 「ちょーらいにぇっ!」 昨日のゆっくり共が、これから仕事に行くという時に、なんだかずうずうしくゆぅゆぅ鳴いている。 「・・・・・・庭の草でも花でも、自分で適当に食え。」 「ゆゆっ!?おはなしゃん、たべちぇいいにょ?やっちゃー!」 「ゆーん、ごはんさんいっぱいだよ~。」 勝手に住むのはかまわんが、ゆっくりフードたら言うものまで買ってやる気など無い。 というか、ペットでもないのにいちいち飯などやらん。 「むーしゃ、むーしゃ。しあわせー。」 「むーちゃ、むーちゃ。ゆ・・ゆぇーん。」 「どうしたの、おちびちゃん。」 「れいみゅ、こんにゃにむーちゃむーちゃちたの、はじめちぇ。」 れいむ達は、飼い主であるおにーさんの愛情を全身で味わっていた。 なにせ、適当に食え、と言って指差した庭には、 柔らかそうなゆっくりした草、 タンポポやシロツメクサの類の雑草寄りの花、 背の低い木には実や柔らかい葉っぱ、 それに、今は何も成っていないが柿やビワの木も生えており、季節が来たら食卓を飾ってくれることだろう。 当然昆虫やミミズも、その気になれば取り放題だ。 ここは、森の中にあったとしたら、数十匹のゆっくりを余裕をもって支えることができる最上級の狩場であった。 それらが全て、この2匹だけのためのごはんだと言うのである。 「おにぃさぁん、ありがとぉぉぉおおおぉぉ。」 そんなある日、夕食の生ゴミを袋に入れて、裏庭のポリバケツに入れようとしたところ、 ゆっくり共が、よだれを滝の様にたらしながらこちらを見ていた。 ・・・・・・そういえば、今都会では『ゆっくりコンポスト』なるものがはやっていると聞く。 正直言って生ゴミを貯めこむのは嫌だし、こいつらでも使ってみるか。 「・・・食え。」 翌朝、袋の中身がきれいさっぱりなくなっていた。 袋に何かが入っていた形跡すら無い。よだれらしきものでベタベタではあるが。 「ゆっくちちたおやさいしゃんだったにぇっ!」 「おにーさんにありがとうってするんだよ。」 「ゆっくちりきゃいしちゃよ。」 「なるほど。こいつは便利だ。」 それからというもの、あの親子は毎日ポリバケツに放り込むはずだった生ゴミを、おやつだと大喜びで食べている。 生ゴミを放置しすぎて増えていたりぐるとかも減った。 生ゴミがなくなったからか、りぐるも食べているのか・・・ しばらくすると、いちいちこいつ等が『おうち』とやらにしている、庭の隅の木箱まで生ゴミを持っていくのもめんどくさくなってきた。 まずは縁側の下に少し穴を掘り、用済みとなったポリバケツを横倒しにしてはめ込む。 ポリバケツの内側に土をいくらか入れ、周囲の穴との隙間にも土を詰める。正面から見るとパッと見トンネルのような感じだ。 あとはあのゆっくり親子を中に放り込んで、自家製コンポストは完成。 「ゆわーい。きょきょはれいみゅたちのおうちなんだにぇ。」 「ゆっくりー!おにーさん、ありがとう!」 なんかぽいんぽいんと跳ねて喜んでいるが、台所からも食卓からも近いここが、 生ゴミを放り込むのに適していただけだ。 「ん、で、あと何が必要だ?」 「「ゆぅ?」」 なんといっても、使い道ができた以上、もはや野良猫と同等ではない。 金をかけてやるつもりはないが、それなりのメンテナンスはしてやろう。 コンポストとしてある程度長持ちしてくれなければ困るからだ。 「ゆ、ゆぅーん!れいむはみずあびができたらうれしいよ。きたないとゆっくりできないよ。それと・・・」 「それと?」 「おちびちゃんにも、ばっじさんがほしいよ!おちびちゃんもかいゆっくりのばっじさんがほしいよ。」 水浴びか。なるほど、こいつ等が饅頭のくせにカビないのは不思議だったが、やはり不潔にしておくのはよろしくないといったところか。 こっちとしても軒下にサッカーボール大のカビ饅頭があるのは気分が悪い。自分たちで清潔にしてもらおうか。 あとは・・・ん?おちびちゃん・・・にも? ・・・・・・妙に馴れ馴れしいのも合点がいった。まさか飼われているつもりだったとは。 まあ、使い道がある今となっては都合がよくもあったが。 「水は、そうだな。このタライに水を入れといてやる。勝手に使え。」 「ゆっくりー!」 「それと・・・バッジねぇ。ああ、あれでいいか。」 持ってきたのは、私が中学生時代に学生服につけていた、襟章だった。 鈍く銀色に光る襟章、どうせこいつ等がバッジとやらを活用する日は来ないのだから、これで十分だ。 リボンに乱暴にネジ式の襟章を突き刺して固定すると、赤色の中に鈍く光る銀色は、思いのほかしっくりときた。 「ゆわーい!ゆっくちちたばっじしゃんだー!」 「ゆぅぅ、よがっだねぇ、よがっだねぇぇえ、おぢびじゃぁぁああん。」 喜んでもらって何よりである。この調子で雑草むしりと生ゴミ処理を頑張ってもらいたいものだ。 翌日には、縁側下のコンポストの近くに「おといれ」と称してうんうん用の穴も掘っていた。 生活の場に排泄物を置いておくのはやはり嫌なのか。だが、これはこちらとしても都合がよかった。 このうんうんという排泄物については、定期的に土と雑草に混ぜて花壇の肥料にしている。 なかなか良質なようで、しかも採集の手間も要らないしありがたいものだ。 「ゆーん、おにーさん。おといれのおそうじしてくれてありがとう。」 「うんうんがなくなっちぇ、ゆっくちできりゅよ。」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− こうしてれいむ親子がコンポストとなった数日後、家の庭に最近ご無沙汰だった来客が来た。 「ねこさんだぁぁあああ!ゆっくりできないぃぃぃ!!」 「ゆぴぃぃ、おきゃあしゃんこわいよぉぉ!」 「ん、ああ、トラか。久しぶり。」 生垣の穴から庭に入ってきたのは、近所で気ままな野良生活を送っている猫だ。 こいつに限らず、我が家を通り道にする猫は多い。 「ゆぁぁぁぁ、おにーさぁぁん。ねこさんこわいよぉぉぉぉ。」 「ゆっくちさせちぇぇぇぇ。」 「・・・嫌なら自分でなんとかしろ。」 「「ゆぅぅぅ、ゆっくりできないよぉ。」」 別にサッカーボールサイズの良くわからん物体にじゃれつく様な、酔狂な猫達でもないが、 町生活でトラウマでもあるのか、度重なる猫の襲撃に、れいむ親子は自分達で何とかすることにしたようだ。 数日後から、徐々にだが、目に見えて生垣の穴がふさがり始めた。 「ゆーえす!ゆーえす!」 「おきゃーしゃん、はっぱしゃんもってきちゃよ。」 「じゃあおちびちゃん、このすきまにはっぱさんをおしこんでね。」 「ゆっくちりきゃいしちゃよ。」 生垣や塀の隙間に、小石を詰め、小枝を刺し、上から土を盛って、また葉っぱや枝を詰める。 近くで見るとやはり幼稚園児の工作の域を出るものではないが、遠目には生垣に溶け込んで見えなくも無い。 何重にもゴミを積み上げているので、強度のほうはちょっと蹴りを入れたくらいでは吹っ飛ばないくらいになっていた。 「これでねこさんはいってこれないね!」 「ゆっくちー。」 「にゅぁ~ん・・・ぐるるる。」 ・・・・・・。 「「どぼぢでねござんはいっでるのぉぉぉおお!?」」 「・・・塀の上からだろ。」 まあ一応は通りにくくなったので、特に頻繁にここに来る数匹以外は入ってくることも無くなり、 多少は平穏になったようだ。 それにしても、なんだか最近庭がきれいになってきた気がする。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 生垣の穴がれいむによってあらかた埋まった数日後、 久しぶりに友人が家まで遊びに来た。 「ゆゆっ!?おにーさんのおともだち?ゆっくりしていってね!」 「ゆっくちしちぇっちぇにぇ。」 「おー、間知由。お前ゆっくり飼ってたんだな。エラい装飾過剰だけど。」 「いや、飼ってないし、あの唐草模様は来たときからだ。俺の趣味じゃない。」 「ふーん。つってもバッジついてんじゃん。」 「ありゃガムだ。」 「え゛・・・。」 「ああ、みかんの皮は庭のポリバケツに放り込んどいてくれ。」 「え?これってこいつらのおうちだろ?」 「いや。コンポスト。」 「んー。・・・え゛ぇ?」 「ゆわーい、おやつだにぇ!ゆっくちありがちょー。」 「むーしゃ、むーしゃ。しあわせー。」 ついでに、夕食の魚の骨も放り込んでおいた。 「ぽりっ、ぽりぽりぽり・・・ゆっくりー!」 「・・・・・ふーむ。」 「どうした?」 「いや。ゆっくりって、案外飼いやすい生き物なのだろうかと思ってな。」 「ただの饅頭だろ。・・・・・・何だよ、その目は。」 「まったく。世の中にはどんだけ愛情注いでも懐かれない奴もいるってのに。」 「そんなもんかね。」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− そして、庭が放置しっぱなしの幽霊屋敷状態から、見違えるようにきれいになった頃、 れいむ達の平穏な毎日に、突然不幸が舞い降りてきた。 「Zzzzzz・・・。」 「すーや、すーや。」 今日は日曜日。おにーさんも日当たりの良い縁側で昼寝中。 れいむ親子も庭に生えた木の木陰でゆっくりと惰眠をむさぼっていた。 そのとき庭に、普段と違う空気が漂う。 「うー。」 「ゆぅ?・・・すーや、すーや。」 「あまあまー。」 「ゆ・・・すーや、すーや。・・・・・・れみりゃだぁぁぁああああ!!!」 庭に突然飛来したのは、本来夜行性のれみりゃ(胴無し)。 庭のすぐ奥にある林は、昼でも薄暗く、たまに昼でも活動するれみりゃが現れたりする。 しかも、このあたりは農家だったこともあり、害ゆ対策として、れみりゃを大量飼育していた時期もあったので、 最近森の奥でしか見なくなったれみりゃ種もチラホラいたりするのだ。 「おちびちゃん、ゆっくりにげるよ!」 「ゆあーん。れみりゃはゆっくちしちぇにぇ。」 ぽよん、ぽよん、と大急ぎでおうちに飛び込むれいむ親子。 れみりゃは追ってこなかった。どうやら助かったようである。 しかし、一つだけ気がかりがあった。 「ゆぅぅぅ、おきゃーしゃん、れみりゃはゆっくちできにゃいよぉ。」 「ゆ!おちびちゃん。ここはおにーさんがつくってくれたおうちだから、れみりゃなんてはいってこれないよ!」 「ゆっくちー。でみょ・・・。」 「おちびちゃん?」 「おにーしゃん、すーやすーやしてたよ?れみりゃにゆっくちひどいことされてにゃい?」 「ゆゆっ!?」 「そろーり!そろーり!」 おにーさんの無事を確かめるべくおうちから慎重に這い出るれいむ。 見つかったら命はないだけに、そろーりそろーりにも力が入る。 そして、れいむは驚愕の姿を目撃した。 「うー!うー!」 「Zzzzzz・・・・、じゃま・・・」 ・・・・・・れみりゃがおにーさんにじゃれていた。 「ゆぁぁぁああああ!おにーさんがたべられるぅぅぅううう!!!」 「うー?」 「やめてねっ!おにーさんをたべないでねっ!れみりゃはゆっくりどっかいってね!!」 ゆっくりしたおにーさんを助けるべく、れいむはれみりゃに立ち向かう。 しかし、口にくわえた木の枝をどれほど振り回しても、空を舞うれみりゃ相手には届かなかった。 「ゆぅ、ゆぅぅ、どうしてとどかないのぉぉ。」 「うー!あまあまー。がぶり。」 「ゆひぃぃぃぃ、れいむのあんこさんすわないでぇぇぇぇ・・・。」 「おきゃあしゃぁぁあん、ゆっくち、れみりゃはゆっくちしちぇぇぇぇ!」 「お、肉まん。」ぱさり。 「うー!うー!」 といったところで目が覚めたおにーさん。 玉網を使ってあっさりとれみりゃを捕獲したのであった。 それにしても、生ゴミを処理して肥料を作り、 庭の管理までやってくれた挙句、夕食のおかずをおびき寄せてくれるとは、 つくづく使いでのあるコンポストだ。 つい今さっきまでたっぷり飯を食っていたこの肉まん、中身がが詰まっていてうまそうだな。 「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ」 「おきゃーしゃん、ゆっくちしちぇぇぇぇ。」 ザックザックザック 薄っぺらくなった方のれいむには、中身を詰めなおしてやることにする。 掘り出したのは、「おといれ」とやらになみなみと貯められた餡子。 こいつを、中身の減ったれいむの口からねじ込んでやることにした。 「ゆ゛っ、ゆぼぉっ!おにーざん、やべでぇ、ゆっぐぢでぎなっ!ゆぼっ!」 「おにーしゃん、やめてあげちぇにぇ!おきゃーしゃんがいやがっちぇるよ。」 無視。餡子は餡子だ。多少土が混ざっているが、中に詰めなおしてやれば問題ないだろう。 「ゆ゛っ、ゆっぐぢしていってね。ゆげぇ。」 「やっちゃー!おきゃーしゃん、げんきになっちゃよ。」 「ゆ、ゆぅぅ・・・おにーさん、ありがとぉ・・・。」 「しゅーり、しゅーり、ちあわちぇー!」 ふむ、消耗してはいるが、まだ当分は使えそうだ。 そして、その夜は多すぎて食べきれなかった肉まんの残りを、コンポストに放り込んでやった。 やはり一人暮らしにあのサイズは無茶な話だな。 「ゆわーい。きょうはごちそうだにぇ!」 「ゆーん。きっといっしょにれみりゃをやっつけたから、ごほうびなんだよ。」 「ゆっくち!ゆっくち!」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− そんな生活が、しばらく続いたが、 子れいむが成体にまで大きくなった頃、親れいむの方が死んだ。 あとで調べたが、町の野良の寿命は平均一年かどうかと、大分短いらしい。 我が家に来た時には中古のポンコツだったということか。 「お・・・おにーさん。おちびちゃんを、・・・これからもゆっくりさせてあげてね。」 「特になにも変らんよ。」 「おちびちゃん、・・・ゆっくりしていってね・・・・・・」 「おかーしゃん、おきゃあしゃぁぁぁあああん!!!すーりすーりしてね、ぺーろぺーろしてねぇぇえええ!!!」 リボンは子れいむの方が欲しがったのでくれてやり、死体のほうはぐちゃぐちゃにすり潰して肥料にした。 花壇の花も元気に育つことだろう。 「おかーさん。おはなさんになったんだね。」 「まあそうとも言えるな。」 「ゆっくりしていってね。おかーさん。」 まあ、そんなことはどうでも良かったのだが、少し問題が生じてきた。 コンポストの、生ごみ処理能力が落ちてしまったのだ。 「ゆぅぅ~。さびしいよぉ。」 「おちびちゃんがほしいよぉ。」 「すーりすーりしたいよぉ。」 どうも孤独な生活と発情期が重なって、ノイローゼ状態になったらしい。 頭数が減ったうえ、どうにも食欲が無い。庭の雑草もまた伸び始めてきた。 これは、新しいゆっくりを取ってくる必要がありそうだな。 その日、夕食の生ゴミをコンポストに放り込みながら、 れいむにつがいを探してやる、と言った時のれいむの喜びようは大変なものだった。 体が溶ける寸前まで水浴びをして、リボンのしわ一つ一つまで丹念にあんよでつぶして伸ばしていく。 コンポスト内の清掃も丹念に行い、 さらに子供が出来た後のために、花やイモ虫、果物の皮などのごちそうから保存食の干し草まで貯めこむ。 にんっしん中のベッドまで葉っぱと草を使って作り終えて、準備万端でその日を迎えた。 約束の日、私はれいむを連れて街を歩き、れいむ的に「すっごくゆっくりしてる」まりさを手に入れた。 この白黒饅頭、帽子にアイロンをかけた形跡もわずかにあり、恐らくバッジを引きちぎったのであろう傷痕も見られる。 飼われていたというなら、それなりの躾もされているのだろう。好都合だ。 「ゆふん!そんなにまりさをかいたかったら、かわせてやってもいいのぜ。」 「ゆっくり!まりさ、ずっとゆっくりしようね!」 「ゆん!なかなかゆっくりしたれいむだから、とくべつにすっきりしてやってもいいのぜ。」 本人も乗り気のようだから都合よい。つがいにしてやることにして、家に連れていった。 「ゆぅ~ん、まりさ。すーり、すーり。」 「ゆへぇぇ!いいからとっととまむまむをむけるのぜぇ!『ぼよぉぉおん!』」 「『ごろんっ』ゆぅ!?もっとゆっくりしてぇ!」 「しったこっちゃないのぜ!まりさのぺにぺにをおみまいしてやるのぜぇ!!」 ずぼぉっ!ずっぽずっぽずっぽずっぽ・・・ 「ゆぁーん、いだいぃぃぃい!らんぼうすぎるよぉ。もっと、ゆっぐりぃ!」 「ゆっふっ!ゆっゆっゆっゆっゆっゆっすっきりぃぃぃいいい!」 「ずっぎりぃぃ。」 とりあえずれいむの腹が膨れてきたので、予定どおりにいったようだ。 「ひどいよまりさ・・・」 「ゆふぅ。ひとしごとおわっておなかがすいたのぜ。にんげんさん、とっととごはんをもってくるんだぜ!」 「その辺のを適当に食え。」 「ゆゆ!?なにいってるのぜ。ゆっくりふーどさんなんて、どこにもないのぜ。」 「草があるだろ。」 「な・・・なにいってるのぜぇぇ!くささんはごはんじゃないのぜ! ふーどさんがないならけーきさんでもいいのぜ!はやくもってくるのぜ、くそじじぃ!」 「ゆぅ。なにいってるの?おにーさんにあやまってね。くささんはおいしいよ。むーしゃむーしゃ。」 「ゆぎぃぃぃいい!もういいのぜ!はやくおうちにいれるのぜ!べっどですーやすーやするのぜ!」 「そこに家ならあるだろ。」 「な・・・なにいってるのぜぇ!これはごみばこさんなのぜ!くさくてきたないのぜ!」 「ひ、ひどいよまりさ!おにーさんがれいむにくれた、ゆっくりできるおうちだよ! それに、れいむがいっしょうけんめいおそうじしたんだよ!ゆっくりあやまってね!」 「・・・いいよ別に。文句があるなら勝手に出ていけば。」 「ゆふん!まったく、ばかなじじぃとゆっくりしてないごみれいむのほうが、このおうちからでていくのぜ! ゆっくりしたまりささまが、とくべつにこのおうちをつかってやるのぜ!」 「ふーん・・・。れいむ、どうやら一緒に暮らすのは無理そうだが。」 「ゆぅぅぅぅ・・・ゆっくりできないまりさだよぉ。」 とりあえず、私が家から追い出されるのは嫌なので、ゆっくりしたまりささまとやらは、門から丁重に出て行ってもらった。 あれだけ態度がでかいと、野良をやっていくのも大変だろうに、大したものだ。 しかし、ゆっくりと言っても、コンポスト向きのとそうでないのがいるのかもしれない。 黒帽子がダメなのか、飼われていたのがダメなのか、まあ、どうでもいいことだ。 れいむの腹にいるちび共の中に黒帽子がいたら、それもはっきりするだろう。 つがいこそいなくなったものの、孤独を埋めるという当初の目的は達成されたようである。 それから数匹分の食欲を発揮し始めたれいむは、3週間後、無事れいむ種一匹とまりさ種一匹を出産した。 赤ゆっくりが腹から射出される勢いには驚いたが、庭は柔らかい芝生であったのが幸いしたのか、 せっかくれいむが作っていた草のクッションから1m以上離れて着地したものの、つぶれることはなかった。 「「ゆっくちしちぇっちぇにぇ!!!」」 「ゆっくりしていってね!ゆぅーん、ぺーろぺーろ、おちびちゃんたちかわいいよぉ。」 これで、コンポストの方は今後も安泰そうだ。 母れいむがチビ共にもバッジが欲しいとか言ってきたので、画鋲のカサの部分をセメダインでくっつけておく。金バッジだ。 これで満足して生ゴミを処理してくれるのだから、安上がりなものだ。 ちなみに、ゆっくりしたまりささまに出て行ってもらってから二日後、門の前にみすぼらしく、 帽子もかぶっていないまりさ種が一匹転がっていた。 「やっばりがっでぐだざぃぃ・・・おねがいじばずぅ。」 とか言っていたが、ゆっくりを飼う趣味などないので、無視しておいた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− それからしばらくは、コンポストとしても庭の芝生管理としても特に問題はなかった。 ピンポン玉サイズの子供たちでは、成体一匹分の処理能力を補えるかと、多少不安ではあったが、 どうやら、成長中のチビ共の方が食欲は旺盛らしく、生ゴミは毎日順調に処理され、肥料になっていった。 黒帽子の方も特に文句を言わず、生ゴミをムシャムシャ食らい、庭をぽよんぽよんと跳ねまわっている。 やはりあの態度は、育ちが問題だったようだ。 だが、赤ゆっくり達が産まれてから一月ほどたち、そろそろ冬の近づきを肌で感じ始めた頃、 またしてもコンポストの性能が低下してきた。 朝、コンポストの中をのぞいてみると、まだ昨日の生ゴミが残っている。 さらにその奥では、歯をガチガチと鳴らしながら、目の下にクマをつくったれいむ一家がいた。 「お、おおお、おにーさん、おうちがさむいよぉぉぉ・・。ねむれないよぉぉ・・。」 「しゃむくてゆっくちできにゃいぃぃぃ。」 「ごはんしゃんつめちゃいよ。むーちゃ、むーちゃ、しょれなりー。」 コンポストはれいむ達なりにきっちり入口を塞いでいるが、やはり所詮はポリバケツ。 まだ昼間は温かいが、壁一枚隔てた向こうの、夜の寒気を完全に防ぐことはできないようだ。 この時期でこれでは、冬の間はコンポストの機能が完全に停止しかねない。 家に入れるという選択肢はもちろんないが、 本格的にコンポストの改造を行う必要がありそうだ。 その日の昼、れいむ一家に『たからもの』とか言う小石や押し花や、ガムの付いたリボンらしきゴミをコンポストから出させると、 大規模な改装に取り掛かった。 まずは、ポリバケツを掘り出して、横倒しにすると天井になる、壁の一部を四角く切り抜く。 それに、ちょうつがいと留め金をつけて、外から開けるようにした。 ゆっくりは、冬には巣の入り口を密閉するらしいので、生ゴミの投入口をつけてやったわけだ。 次にバケツの入口、つまりゆっくりの出入り口だが、せいぜい直径30cm程度のゆっくりに対しては大きすぎる。 壊れたすのこを材料にして、ドーナツ状の板をつくり、バケツの口に取り付けてやった。 これでゆっくりの出入り口は、必要最低限の大きさになり、 木の枝などで塞ぐ手間も、寒気の吹き込む隙間もぐっと減るはずだ。 あとは、再び縁側の下にポリバケツを埋めなおし、これまではむき出しだった側面にまで土をこんもりと盛っておく。 外から見ると、生ゴミの投入口と、ゆっくりの出入り口だけ穴のあいた、砂場の砂山のような外観となる。 縁側の下なので、雨風で盛り上げた土が崩れる心配は無い。 地下は冬でも暖かいというので、これで断熱は十分だろう。 数十分の作業中、庭で遊ばせていたれいむ一家を呼び寄せた時の反応は、 以前コンポストを、はじめてつくった時以上のものであった。 「ゆ、ゆ、ゆ、ゆわぁぁぁぁああい!すっごくゆっくりしたおうちだよぉぉおおお!」 「ゆっくち!ゆっくちー!れいみゅたち、こんなゆっくちしたおうちにしゅんでいいにょ!?」 「ゆわーい!なかもあっちゃかいよー!ゆっくちー!」 「ふーい、疲れた。あとはこいつでも中に敷いとけ。」 「ゆぅぅぅぅうう!しゅごーい!ゆっくちちたおふとんしゃんだー!」 「おにぃさん、ありがと、う、ゆぇぇぇええん!」 「おきゃーしゃん、ないちぇるにょ?どっかいちゃいにょ?ゆっくちしちぇにぇ。」 「おちびちゃぁぁあん!れいむはうれしくってないてるんだよぉ。ゆっくりー、ゆっくりー!」 近所の農家から頂いてきた干し藁をひと束くれてやっただけだが。 とりあえず、この反応からして、今後はまたコンポストとして元気にやってくれそうだ。 こちらはやることやったので、あとのメンテはこいつ等がかってにやってくれればいい。 かつて母れいむと一緒に野良生活を送っていた頃、れいむには夢があった。 温かくて、雨の心配も、風の恐怖も感じないですむおうち。 毎日お腹いっぱい食べられるだけのごはん。 しかも、そのごはんを手に入れるために、命の危険など感じずにすむゆっくりプレイス。 外敵の心配もないそのゆっくりプレイスで、 ゆっくりしたおちびちゃん達とすーりすーりしたり、のーびのーびしたり、 おうたをうたったり、水浴びですっきりーしながら、毎日ひたすらゆっくりする。 夜になったら、ゆっくりしたおうちに帰り、ふかふかのおふとんの中で、 家族で肌を寄せ合ってすーやすーやする。 たまにはあまあまが食べられたら言うことはない。 これが、れいむのかつて夢見たすべてであった。 そして、今、この場所には、れいむが望んだもの全てがあった。 全てのゆっくりが追い求め、そして見つけることの出来なかった場所、ゆっくりプレイス。 だが、れいむにとってのそれは、人間さんがコンポスト、と呼ぶこの場所に、確かに存在していたのだった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「ゆっくりー!」 「すーり、すーり、しあわせー。」 「すーり、すーり、・・・ゆっ、ゆっ、ゆっ」 「ゆふぅん、だめだよまりさぁ。ゆふぅ、ゆふぅーん!」 れいむ親子が初めて我が家のコンポストとなって2年。 結局外部から新たなゆっくりを連れてくる必要はなくなった。 こいつらは、家族以外のゆっくりがいないとなると、姉妹同士でつがいを作り続け、今はすでに4世代目である。 今はこれまた姉妹である、れいむとまりさのつがいがコンポストとして活躍している。 それと、最近は花壇の世話もめんどくさくなったので、街でゲッソリしていたゆうか種も一匹拾って庭に住まわせている。 最初はコンポストの連中が花を勝手に食う、食わないでもめた時期もあったが、 群れでもない以上大した量を食われることもなく、しかも花の肥料がコンポスト産だということもあり、 それなりの折り合いをつけることで落ち着いている。 「「すっきりー!」」 などと思っているところで、また増えるつもりのようだ。 れいむの頭ににょきにょきと生えたツタには赤れいむが3に赤まりさが2。 まあ、構わない。どうせ代替わりが激しいゆっくりである。 うっかり病死などしないうちに子供を作ってもらわなければ余計な手間だ。 それに増えすぎるようなら何個か潰して肥料にするだけ。 庭もすっかり華やかになって、もう幽霊屋敷の頃の面影は残っていない。 「おはよーございます。」 「ああ、農場の。おはよう。」 最近ついにこの辺も、のうかりん農場化が進み始めた。 生垣の向こうから挨拶してきたのうかりんも、そこの従業員である。 「とってもゆっくりした庭ですね。きれい。」 「まあ、ゆうかが一匹でやってるんだがね。」 「うふふ。それは失礼しました。でも、それ以上に・・・あなたの飼われているゆっくり達。」 「?」 「とってもゆっくりしてますね。今までたくさん飼いゆっくりを見ましたけど、一番ゆっくりしてますよ。」 「ふーん。そんなもんかね。」 同じゆっくりである、あののうかりんが言っているなら正しいのだろう。 よくわからんが、この2年間で一つだけ確信したことがある。 こいつらには、コンポストという仕事が向いている、ということだ。 リクのあったゴミ処理場ネタは今度また書きます。 それにしても自分のSS製作ペースがそれほど落ちたわけではないのに、 いつの間にか餡小話のそうとう下に追いやられてたり。 SS増加ペース早っ。 とりあえず、シリーズものについてはそろそろなんか書きます。 町れいむ、レイパー、計画中のペットショップシリーズ リクの消化もまだおわってないなぁ。 挿絵 by街中あき 挿絵 by??? 餡小話掲載作品 ふたば系ゆっくりいじめ 132 俺の嫁ゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 148 ここはみんなのおうち宣言 ふたば系ゆっくりいじめ 157 ぱちゅりおばさんの事件簿 ふたば系ゆっくりいじめ 249 Yの閃光 ふたば系ゆっくりいじめ 305 ゆっくりちるのの生態 ふたば系ゆっくりいじめ 333 銘菓湯栗饅頭 プラス本作品 『町れいむ一家の四季』シリーズ(ストーリー展開順・おまけについては何とも言えないけど) 春-1-1. ふたば系ゆっくりいじめ 161 春の恵みさんでゆっくりするよ 春-2-1. ふたば系ゆっくりいじめ 154 竜巻さんでゆっくりしようね 春-2-2. ふたば系ゆっくりいじめ 165 お姉さんのまりさ飼育日記(おまけ) 春-2-3. ふたば系ゆっくりいじめ 178 お姉さんとまりさのはじめてのおつかい(おまけのおまけ) 春-2-4. ふたば系ゆっくりいじめ 167 ちぇんの素晴らしきゆん生(おまけ) 春-2-5. ふたば系ゆっくりいじめ 206 町の赤ゆの生きる道 夏-1-1. ふたば系ゆっくりいじめ 137 真夏はゆっくりできるね 夏-1-2. ふたば系ゆっくりいじめ 139 ゆっくりのみるゆめ(おまけ) 夏-1-3. ふたば系ゆっくりいじめ 174 ぱちぇと学ぼう!ゆっくりライフ(おまけのおまけ) 夏-1-4. ふたば系ゆっくりいじめ 235 てんこのインモラルスタディ(おまけのおまけのおまけ) 夏-1-5. ふたば系ゆっくりいじめ 142 ゆうかりんのご奉仕授業(おまけ) 夏-2-1. ふたば系ゆっくりいじめ 146 雨さんはゆっくりしてるね 夏-2-2. ふたば系ゆっくりいじめ 205 末っ子れいむの帰還 秋-1. ふたば系ゆっくりいじめ 186 台風さんでゆっくりしたいよ 秋-2. ふたば系ゆっくりいじめ 271 都会の雨さんもゆっくりしてるね 翌年 ふたば系ゆっくりいじめ 224 レイパーズブレイド前篇(おまけ) 挿絵:街中あき 挿絵:おっぱい無しあき
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/2331.html
ユックロイドゆっくりれいむ 「ゆっくゆっくりにしてあげるー♪ゆっくゆっくりにしてやんよー♪」 おお凄い!!ちゃんと歌ってる!! 「ゆっへん!れいむはユックロイドなんだよこの位は当然だよ!」 得意満面のれいむ、このれいむただのれいむではないゆっくりの特技、歌うことに 特化して品種改良されたれいむ。 ユックロイドゆっくりれいむである。 ではこれはどうだ、お兄さんはパソコンのキーを叩き一つのファイルをクリックした 「れいむは生まれそして気づく所詮饅頭の真似事だと知ってなおもゆっくり続く 永遠の生首ユックロイドたとえそれが東方キャラをなぞるアンコならば・・・ それもいいとノービノービ あまあまをかじり、空を見上げシーシー(シル)をこぼす …」 すごい早口も完璧だ!!人間でも不可能だろうこれは。 ユックロイドゆっくりれいむはパソコンとリンクし完璧なめろでぃーで歌うのだ。 「ゆっふふ!!これがユックロイドの力だよ!!さあおにいさんれいむをトップでぃーばーにしてね 今すぐでいいよ」 ああ!!やってやるともれいむ俺たちなら天下をとれるぜ!! 一月後 おー初音ミクの曲がまたオリコン入りしてるぞ、天使のミクさんが商業主義という翼を得て金色の女神になろうとしてるな!! ユックロイドれいむは部屋の隅で埃をかぶってましたとさ